「ヘビ毒の進化」はなぜ重要なのか
ヘビ毒の急速な進化を理解することには、いくつもの実用的なメリットがある。最もわかりやすいのは抗毒血清だ。抗毒血清は現在も、実験動物(主にウマ)に毒への免疫をつけさせるという方法で生産されている。そのため、毒の組成が個体群ごとに、あるいは年月とともに変化し始めた場合には、1つの「バージョン」の毒に対応する抗毒血清は、ほかのバージョンに対して十分に効果を発揮しない可能性が高い。
こうした観点から、「毒の急速な進化」から得られる知見は、以下のような分野に応用できる可能性がある。
・次世代の抗毒血清:毒の進化と多様性に関する知見を基礎とした開発
・新薬の発見および合理的な治療デザインの開発:毒のペプチドからヒントを得た、高度な特異性を備えた抗凝血剤、鎮痛剤、降圧剤、イオンチャネル調節薬
・受容体・酵素への高精度なターゲティング:毒の成分を分子プローブとして利用した、シグナル伝達経路、血液凝固カスケード、神経筋伝達の細部の解明
・がん、自己免疫疾患、疼痛の治療:ヘビ毒由来の分子がもつ、細胞接着、神経チャネル、血管形成、アポトーシス、免疫シグナル伝達の調整機能を活用
ヘビとその獲物が繰り広げる進化の軍拡競争は、驚くべきスピードで展開する。ヘビの毒は、進化的に見て極めて短期間のうちに、著しく変化することがある。両生爬虫類学者にとっては、足元の地面が常に揺れ動いているようなものだ。
数十年前に分析された毒の組成は、すでに時代遅れになっている可能性がある。獲物の防御機構もまた変化しているかもしれない。分子レベルの戦いは、研究者が注目しているかどうかにかかわらず、果てしなく続く。ヘビにも、その獲物にも、立ち止まって傍観するという選択肢はない。
自然界でも類まれなスピードと過酷さで繰り広げられるこの「進化のレース」の解明にあたっては、研究者も不断の努力を求められている。


