裁判所は訴状に重大な法的欠陥があると認定し、証拠開示手続きの停止を決定
しかし裁判所は、この問題を本格的に取り上げる姿勢を示していない。ジェームズ・M・ウィックス連邦地裁判事補は、IRSが提出を予定している却下申立てを待つ間、証拠開示手続きを停止するよう求める申立てを認めた(各地裁の判事によって任命される連邦地裁判事補は、多くの地区で民事・刑事事件における公判前の申立てや審理を担当する。民事事件の大半は地裁判事が審理するが、当事者全員が同意すれば、判事補が民事裁判を主宰する場合もある)。
「証拠開示の停止申立て」とは、訴訟で行われる証拠集めの手続きを、いったん止めてほしいと裁判所に求める正式な申立てを指す。証拠開示は訴訟の初期段階で行われる。当事者同士が文書の提出を求め合ったり、証人尋問を通じて情報や証拠を交換する。しかし、この手続きは時間も費用もかかる。そのため被告側は、却下申立てがすでに提出されている、あるいは本件のように提出が見込まれており、しかも訴訟そのものを打ち切り得る前提的な法的争点がある場合には、無駄な負担を避けるため、証拠開示の停止を裁判所に求めることがある。
証拠開示の停止の目的は、訴訟を進めることが可能か、あるいは進めるべきかを裁判所が判断する間、不必要な費用と労力を回避することにある。これは訴訟そのものを決定するものではなく、根本的な法的問題が解決されるまで、情報収集を単に一時停止させるものにすぎない。
連邦民事訴訟規則では、「正当な理由」があれば証拠開示を停止できるとされているが、却下申立てを提出した、あるいは提出を予定しているというだけでは、自動的にその要件を満たすわけではない。裁判所は通常、少なくとも3つの要素を検討する。それは、被告が訴えの内容に実質的な根拠がない可能性を示しているかどうか、証拠開示が広範または過度な負担を伴うかどうか、そして証拠開示の停止がもう一方の当事者に不当に不利益をもたらすかどうかだ。
こうした原則を本件に当てはめた結果、ウィックス判事補は、証拠開示の停止が相当だと結論づけた。判事補は、IRSが当初の訴状について、却下申立てを乗り切る見込みが低いことを十分に示したと認定している。連邦政府は、事前協議の段階で提出した書簡で、「原告適格」を欠いていることや送達手続きの不備、法的に請求として成り立っていない点などを挙げ、訴状には複数の問題があると指摘した。裁判所文書によれば、レイノルズはこの書簡に対して反論も回答もしていない。
実際に「扶養家族」として申告した事実はなく不利益も主張していないため、「原告適格」をめぐる問題が発生
「原告適格」とは、訴訟を起こしたり、裁判所に事件を審理してもらったりするための法的な資格を指す。裁判所に訴えを聞いてもらうには、通常、訴訟の相手方から実際に被害を受け、その被害を救済できる唯一の手段が司法にあることを示す必要がある。こうした要件は、裁判に持ち込まれる案件が軽率なものではなく、適切な当事者によって提起されているかどうかを確認するためのものだ。
しかし、レイノルズは訴状の中で、実際に自分の犬を扶養家族として申告しようとした事実や、不利益を被った具体的な事実を主張していない。これが、原告適格をめぐる問題を生じさせている。また、ウィックス判事補は、この点に加えて、原告適格に影響する別の問題も訴状には含まれていると指摘した。反差止法(Anti-Injunction Act)と宣言的判決法(Declaratory Judgment Act)が、税の課税や徴収をめぐる異議申し立てを原則として認めていない点だ。
反差止法は、税の課税や徴収を止めることを目的とした訴えについては、裁判所が審理することを認めていない。また、宣言的判決法は、連邦税に関して連邦裁判所が宣言的な判断を示すことを禁じている。こうした規定が、本件訴訟で原告適格を認めるうえでの高いハードルになっている、というのが裁判所の見方だ。
IRSは、訴状の送達方法にも問題があると主張している。送達とは、召喚状や訴状などの法的書類を被告に正式に届け、訴訟を起こされた事実を知らせる手続きだ。これにより、被告は自らを弁護する機会を与えられる。とくにIRSのような連邦政府機関を相手取る場合、送達は連邦規則に厳格に従って行う必要がある。IRSは、本件ではその要件が満たされていないとして、送達が不適切だったと訴えている。
最後にウィックス判事補は、たとえ訴状の主張が事実だとしても、救済を受ける権利につながらない場合には、訴えは先に進めないと指摘した。判事補は、本件の実体的な当否について正式な判断は示していないものの、いくつかの点で原告の主張は成り立ちにくいとの見解を示している。
まず、合衆国憲法修正14条は州政府を対象とする規定であり、IRSのような連邦政府機関には適用されない。また、修正5条に基づく財産権収用の主張についても、単に税金を支払うこと自体は補償の対象となる「収用」には当たらず、認められる可能性は低いとした。税法や税務裁判所の判例を踏まえれば、内国歳入法152条の下で、動物を扶養家族として認めることは明確に否定されているとも、判事補は指摘している。


