ドローンの火力にさらされる兵站
ロシア軍の保有車両の枯渇は今年4月までにますます顕著になっていた。ウクライナの分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトの創設者であるTatarigamiは、戦場で装甲車両の使用が減り、オートバイやバギー(俗称「ゴルフカート」)、バンといった民生用車両への依存が強まっていることは、ロシア軍の機動能力の劣化を示していると指摘している。
ウクライナ軍もまた、ドローンの脅威のためにトラックやピックアップ型車両、装甲輸送車が不足している。ウクライナ軍第7即応軍団の無人システム部門長は英BBCに、東部ドネツク州ポクロウシク方面への補給物資のおよそ9割は無人車両(UGV)で運ばれていると明かしている。
現在のような規模でドローン戦が繰り広げられる状況下では、攻勢作戦も一段と難しくなっている。かつて機械化戦で中核的な要素だった大規模な機動は、もはや隠蔽するのが難しく、継続していくのは輪をかけて難しい。
ウクライナの「ドローンの壁」
ウクライナ軍第413独立無人システム連隊のドローン操縦士であるディムコ・ジュルクテンコは筆者の取材に、ウクライナ軍がロシア軍部隊を前線に到達するはるか手前で迎え撃つケースが増えていると説明した。
「わたしのチームは(ロシア軍の)歩兵部隊や車両を前線から15〜20km離れた地点で狙います。移動中にたたくことで、実際の戦場まで到達できないようにしています」(ジュルクテンコ)
彼によれば、ロシア軍の戦術自体に大きな変化はみられないという。一方、ウクライナ側はドローンの使用をさらに拡大することで、ロシア軍の兵站のかなりの部分を破壊できるようになっている。英国の退役軍人で、2022年にウクライナ側で南東部マリウポリの戦闘に参加したショーン・ピナーも筆者にこう述べている。「前線はどこもかしこも常時ドローンで監視され、砲兵観測や対砲兵射撃が行われているので、双方とも相手側に気づかれず動くことはほぼ不可能になっています」
したがって、戦場で生き残るにはシグネチャー(探知や識別の手がかり)を減らすことがきわめて重要になっている。重装甲車両は防護力がある半面、移動速度が遅く、土ぼこりを巻き上げるなど大きなシグネチャーを発してしまうので、ドローンに探知・攻撃されやすい。


