アート

2025.12.25 16:15

変化の時代、「ブレない軸」を持つには? 世界を魅了する日本画家・長谷川幾与に学ぶ経営のスタンス 

長谷川幾与「providence VI(2024年)」。奈良の仏像からインスピレーションを得て描かれた

岩渕:これからが楽しみですね。ビジネスでも最近はデジタル化、AI化の流れの中で、五感を使う重要性が高まっていると感じます。ビジネスを前進させるためには、人を動かし、協力していくことが求められます。そのためには例えば場の空気感や声のトーン、熱量など、五感に訴えて人の心を動かしたり、共感を促したりする必要がある。しかし、PCに向かっているだけでは、それができません。ビジネスも人間もおかしくなっていくと思います。

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長谷川さんは岩絵具や金箔などといった日本独自の画材を用いられていますね。多くの西洋の油絵具やアクリル絵具が化学的に精製された絵具であるのに対し、それらは天然由来のものです。日本画の画材が生み出す特有の光や素材の凹凸、厚み、香りは、視覚だけでなく、観る者の五感を刺激します。

長谷川:天然の岩絵具は、地球が長い月日をかけて作ってきたものです。それに対する愛着や愛情もありますし、自然が生み出したものだからこそコントロールできない部分がある。湿度などの空気の状態で、色の出方や質感が全く変わってくるんです。その複雑さが、日本的なものや日本画の可能性につながっているとも言えるでしょう。

そして、日本の画材については、私たちアーティストから作り手の顔や製造工程が、ある程度見えるんですよね。私は画筆職人さんとも知り合いですし、和紙職人さんから和紙の作り方を習うことも。箔も、自分で貼れるようになりました。感謝というとすごく軽い感じに聞こえるかも知れないですが、そうしたつながりを全て意識しながら制作できることは、自分にはとても大事ですね。

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なぜ世界のリーダーは長谷川幾与の作品に惹かれるのか

岩渕:ENND Partnersを共同創業したIDEOの名誉会長、Tim Brownと話をしていた時に、「欧米の市場ではアート作品はコンセプトありきが大前提で、その手段として素材を選ぶけれど、日本の作品は素材そのものの良さを生かして作るところがすごい」という話題になりました。長谷川さんの作品は、海外の経営層にも人気だとか。その理由はどこにあると思われますか?

長谷川:昔、フィンランドで個展を開いた際に、縦長の作品を観なれていない方々が、頭を横にして作品を観ようとしたこともありました(笑)。だけど今は、ソーシャルメディアなどの影響で、世界で価値観の壁がなくなってきて、フラットに受け入れてもらっていると感じます。

マンガや日本食などを好まれる外国の方は多いですが、瞑想やより深い日本の精神性への理解も進んできて、日本人と海外の方が良いと思う感覚の距離はなくなってきています。

作品には色々感想をいただきますが、「にじみ」が生きている感じを想起させると言われることがあります。海外の方にも、余白や素材の細部へのこだわりを感じていただいている感触を得ています。例えば岩絵具の細かな質感──キラキラと輝く様子や、よく観察することで作品の良さが見えてくる感覚は、結構、日本的だと思っています。それを魅力だとらえてくださる方は、恐らく海外にも多いのではないでしょうか。

岩渕:近くで大きな作品を観せていただくと、例えばプラチナ箔のディテールにまで徹底的にこだわられているのに加え、構造美にも非常に心理的な影響を受けます。個人的には経営者として、難易度が高い仕事をするときに作品を観ていると気持ちが落ち着いて心の拠り所になり、「自分もこういうふうに考えてがんばらないと」とモチベートされます。

長谷川:すごく嬉しいですね。神社や教会もそうですが、人はやはり自分を超えていく大きな力や存在を表現しようとした時に、一番美しいものができるという感覚があって。だから描くときもいかにそれに近づけるか、あるいはつながれるかという気持ちで制作しています。

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文=岩渕匡敦

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