伊藤:そこで重要になるのが、我々が提唱している「レイヤー3.5」という概念です。AI業界には大きく分けて、チップ(レイヤー1)、データセンター(レイヤー2)、汎用基盤モデル(レイヤー3)、アプリケーション(レイヤー4)という構造があります。これまでは「レイヤー3」を巨大化・高性能化すればすべて解決すると信じられていましたが、GPT-4からGPT-4oへの進化で多くの人が感じたように、モデルの性能向上だけではパラダイムシフトは起きにくくなっています。
磯和:確かに、人間が体感できる差は小さくなってきましたね。
伊藤:そこで必要になるのが、モデルとアプリの中間に位置する「レイヤー3.5」だと私たちは考えています。具体的には、数多くあるモデルの中から最適なものを使い分けたり、クライアント独自のデータや暗黙知を学習させた「特化型エージェント」を作ったりする領域です。
磯和:Sakana AIのアプローチを見て驚いたのは、「このお題ならこのモデル」「この部分はこっちのモデル」と細かく使い分けている点です。従来のように「全部読ませていちばん良いものを拾う」のではなく、課題を分割して最適なモデルに割り振る。これによって、コストも最適化され、かゆいところに手が届くソリューションになっています。
伊藤:ありがとうございます。世界のトップAI企業の中でも、上位数社はレイヤー3の開発に集中していますが、それ以外のフロンティア企業は、このレイヤー3.5に舵を切っています。銀行という専門性が高く、かつセキュリティや正確性が求められる分野では、クライアントに寄り添い、共に作り上げるレイヤー3.5のアプローチが不可欠なのです。
磯和:実際に作ってもらったものを見ましたが、腰を抜かしそうになるほどすごかった。単にエラーが少ないとか便利だというレベルではありません。
伊藤:よく「ラストワンマイル」と言われますが、私たちの解釈では、特定のユースケースにおいて「人間を明らかに超える成果が出る」ということです。
磯和:まさにそうです。例えば提案業務では、人間だとどうしても自分の得意な「型」に頼ってしまいますが、AIはその場でまったく異なる「型」をいくつも生成できる。しかも、「やり直し」を100回命じても文句一つ言わずに瞬時に修正してきます(笑)。
伊藤:人間にはできない芸当ですね(笑)。
磯和:これに対して「自分の得意分野なら勝てる」と難癖をつけるのは簡単ですが、それは自分の「レーゾンデートル(存在意義)」を守ろうとしているだけかもしれません。AIは人間の仕事を奪うのではなく、圧倒的な質と量でサポートしてくれる存在です。これからはAIに合わせて組織や仕事のかたちを変えていく必要があります。


