ファッション

2025.12.24 16:00

独立を貫くフェラガモ会長が語った、100年ブランドの矜持

なぜ巨大資本に屈しないのか。独立系の強みとは。創業家の継承ルールとは。若き才能を起用し大胆な変革にも挑む、その狙いは。フェラガモ会長レオナルドが語る。

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LVMHやケリングといった巨大コングロマリットがラグジュアリー業界を席巻するなか、創業家が約65%の株式を握り続ける稀有なブランドがある。1927年にフィレンツェで創業したフェラガモだ。グッチやボッテガ・ヴェネタがケリング傘下に、フェンディやロエベがLVMH傘下に収まる時代。

シャネル、エルメス、プラダとともに独立を守る数少ないメゾンのひとつである。なぜ巨大資本にのみ込まれることなく歩み続けるのか。フィレンツェから来日した会長レオナルド・フェラガモに話を聞いた。

フェラガモの原点と独立の哲学

創業者サルヴァトーレ・フェラガモは、14人兄弟の11番目として南イタリアの貧しい家庭に生まれた。9歳のとき、姉の聖体拝領式のために初めて白い靴をつくり、自らの天職を見いだす。1915年に渡米し、南カリフォルニア大学で足の解剖学を学びながらハリウッドで「スターたちの靴職人」として名をはせた。美しく、かつ履き心地のよい靴をつくる。その飽くなき追求が彼の原点だった。

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マリリン・モンロー、オードリー・ヘプバーン、グレタ・ガルボ、ジュディ・ガーランドなどなど。彼が手がけた顧客リストは、そのまま映画史である。ウェッジヒール、ケージヒール、インビジブルサンダル。機能と美を両立させた希代の革新者は、生涯を通じて350以上もの特許を取得した。

2025年11月、そのフェラガモの会長レオナルド・フェラガモが来日した。創業者サルヴァトーレの次男として1973年に入社し、メンズシューズ事業の立ち上げやアジアを中心とした国際展開を主導してきた人物だ。2021年に兄フェルッチョから会長職を引き継ぎ、現在72歳。今まさにブランドのかじを取る立場にある。

「独立系であることのデメリットはもちろんあります。大きなグループに属していないので、スケールメリットを享受できないことは明らかです」。レオナルドは率直に認める。

「しかし、だからこそ私たちには強みがある。モチベーション、やり抜くという強い意志、そして情熱。これらは同族経営だからこそ維持できるものなのです」。

フィレンツェのファクトリーでは、熟練の職人から若い世代へとクラフツマンシップが日々受け継がれている。木型の削り方、革の選び方、縫製の繊細な技術。言葉ではなく、手から手へと脈々と伝えられる技の数々は、まさに「芸術の域」である。機械では決して再現できない手仕事こそが、フェラガモを独立系ラグジュアリーブランドたらしめる源泉なのだ。

フィレンツェの工房には、創業者サルヴァトーレが1927年にもち帰った靴づくりの哲学が今も息づく。木型、革、道具が整然と並ぶこの空間は「芸術の域」に達した職人の聖域である。ここから世界中のセレブリティを魅了してきた名靴が生まれていく。
フィレンツェの工房には、創業者サルヴァトーレが1927年にもち帰った靴づくりの哲学が今も息づく。木型、革、道具が整然と並ぶこの空間は「芸術の域」に達した職人の聖域である。ここから世界中のセレブリティを魅了してきた名靴が生まれていく。
一足の靴が完成するまでに、熟練した職人の手を何度も経る。機械では再現できない繊細な手仕事こそが、フェラガモを独立系ラグジュアリーブランドたらしめる源泉である。イタリアが数世紀にわたり培ってきた職人技の結晶であり、大量生産の時代にあっても、この伝統は揺らぐことがない。
一足の靴が完成するまでに、熟練した職人の手を何度も経る。機械では再現できない繊細な手仕事こそが、フェラガモを独立系ラグジュアリーブランドたらしめる源泉である。イタリアが数世紀にわたり培ってきた職人技の結晶であり、大量生産の時代にあっても、この伝統は揺らぐことがない。
メンズドレスシューズ。磨き上げられた革の光沢が、フェラガモのクラフツマンシップを物語る。美しく、かつ履き心地のよい靴という、創業者が生涯をかけて追求した理想は、現代にも脈々と受け継がれている。350以上の特許を取得した希代の革新者の魂が、この一足に宿っている。
メンズドレスシューズ。磨き上げられた革の光沢が、フェラガモのクラフツマンシップを物語る。美しく、かつ履き心地のよい靴という、創業者が生涯をかけて追求した理想は、現代にも脈々と受け継がれている。350以上の特許を取得した希代の革新者の魂が、この一足に宿っている。

創業者の「本質」を継承し、時代に挑む

「ラグジュアリーとは、人に見せびらかすものではありません。自慢するためのものでもない」。レオナルドは穏やかに、しかし揺るぎない口調で語った。「本物であること、本質を追求すること、そしてその人の個性に合っていること。それこそがラグジュアリーの神髄です」

イタリアは数世紀にわたり、イノベーション、クリエイション、エレガンス、そして職人技において「芸術の域」に達してきたと彼は続ける。レザー、テキスタイル、そして生き方そのものにおいてもそうだ。その伝統を守り、時代に合わせて進化させ続けることこそが、フェラガモの使命であると。

次世代への継承にも明確なルールがある。創業家のメンバーが会社で働くための条件は3つだ。第一に、担当領域への情熱と能力があること。第二に、外部から招聘した有能なマネジャーと対等にわたり合える実力があること。第三に、社内では一社員、社外では株主という立場をわきまえていること。「会社のなかに入ってしまえば、あくまでも社員なのです」と言い切る。身内であっても甘えは許さない。厳格なガバナンスが、ファミリービジネスの持続性を支えている。

2022年、フェラガモは大胆な決断を下した。当時わずか26歳の英国人デザイナー、マクシミリアン・デイヴィスをクリエイティブディレクターに抜てきしたのだ。ブランド名から創業者の名「サルヴァトーレ」を外し、著名グラフィックデザイナーのピーター・サヴィルが手がけた新ロゴを発表した。

フィレンツェのルネサンス期の石碑に着想を得たセリフ体は、伝統と現代性の融合を象徴する。若い世代にも響くブランドへ大胆に進化を図りながら、創業者のDNAは守り抜く。その挑戦こそが独立系ブランドの真価である。

「日本が好きなのです」とレオナルドは語った。「日本の人々がもつクオリティ、細部へのこだわり、品性。私はそれを深く尊敬しています」。今回の来日目的は、ディストリビューターとの関係強化とマーケット動向の把握だという。多忙なスケジュールのなかでも、会長自ら現地に足を運ぶ。それがフェラガモ流なのだ。

創業からまもなく100年。世界に447店舗を展開しながらも、巨大資本の傘下に入ることなく、フェラガモは歩み続ける。見せびらかすためではなく、本物を届けるために。それこそが創業者サルヴァトーレから受け継いできた、決して揺るがぬ信念である。

フェラガモ

text by Tsuzumi Aoyama | photographs by Yuto Kuroyanagi

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