食&酒

2025.12.19 16:45

味坊集団の梁さんが茨城の農村につくった「美食とアート」の拠点を訪ねる

味坊集団のオーナー梁宝璋さんの別邸「梁餐泊」は古民家を改装したものだ

味坊集団のオーナー梁宝璋さんの別邸「梁餐泊」は古民家を改装したものだ

過去に自分がシェアした投稿やタグ付けされた写真、ある人と「友達」になった日などを振り返る「思い出」という機能がFacebookにあることは、ご存知の方も多いと思う。

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アプリを開くと、いきなり数年前の自分の投稿が現れ、当時こんなことをやっていたのかと、その場を共有した人物や出来事をにわかに思い出し、感慨にふけるというのはよくあることだ。

「5年日記」という同じ日の記録を5年分まとめて書くことができる日記帳があることも、最近知った。過去の自分のライフイベントを現在と比較して振り返り、ある物事に対する考え方が、いつ頃、どう変わったのか気づきを得るのに、5年間というのは、ほどよい時間の長さなのかもしれない。

「ガチ中華」を探索し始めて早5年、なぜ自分はこんなことをしているのだろうかと、ふと思うことがある。もともと美食には縁のなかった筆者を知る古い友人からも、意外だと言われることが多い。

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筆者が「ガチ中華」取材を始めたきっかけ

思い返せば、東京の池袋で当時都内に1軒しかなかったという超レアな中国河南料理店を見つけたのが、2020年4月のこと。コロナ禍に突入したばかりの頃で、その年決まっていた海外取材の仕事がすべて吹き飛び、失意のどん底にいた頃だった。

筆者のガチ中華探索のきっかけとなった池袋の河南料理店「池袋小吃居」(2020年代当時)
筆者のガチ中華探索のきっかけとなった池袋の河南料理店「池袋小吃居」(2020年代当時)

当時のことを筆者は次のように書いている。

<途方に暮れて池袋の雑踏を歩いているとき、いまでいう「ガチ中華」の増加ぶりに気がついた。もともと池袋にこの種の店が多いことは知っていたが、明らかに5年前とは異次元の別世界が広がっていると感じた。

いったいここで何が起きているのか。その全体像を調べることを決意した筆者は、それからというもの、都内の「ガチ中華」の集中エリアを何度も訪ね、面白そうな店に入っては、料理やメニューの写真を撮りまくった。

「池袋小吃居」のメニューにあった河南省のご当地麺「燴麺(ホィミェン)」。筆者は現地以外では初めてこの店で口にした
「池袋小吃居」のメニューにあった河南省のご当地麺「燴麺(ホィミェン)」。筆者は現地以外では初めてこの店で口にした

さいわい、旅のガイドである「地球の歩き方」の取材をしていたことから、中国各地を訪れていたので、既知の料理もいくつかあり、「こんなものまで日本で食べられるのか」という驚きがあった>

その後、2021年夏に『攻略!東京ディープチャイナ』(産学社)と名付けた書籍を刊行、ウエブやSNSの運営を始めると、多くの中国通の人たちが呼応し、このグループで情報をシェアし始めた。

それは筆者にとって心強い同志を得たのも同然だった。彼らは日本に急増していたガチ中華との出合いを惜しみなく投稿してくれたからだ。

池袋の中華フードコート「友誼食府」は、コロナ禍直前の2019年冬にオープンしている。ここは日本のガチ中華の存在を知らしめる発火点ともなった
池袋の中華フードコート「友誼食府」は、コロナ禍直前の2019年冬にオープンしている。ここは日本のガチ中華の存在を知らしめる発火点ともなった

それから今日に至る経過は、この5年間のウエブやSNSの履歴を振り返ると、いきいきと蘇ってくる。

最初は、中国のどの地方のどんな料理を供する店があるのか、いまでいう「ガチ中華」の実態を把握することが目的だった。

だが、少しずつそれが見えてくるうちに、なぜこれらの店が現れたのか、いま東京で何が起きているのだろうか、という問いに変わっていくのに時間はそうかからなかった。

そのうち、大まかに次のようなことがわかってきた。

ガチ中華の料理には想像以上に多様なジャンル、種類があること
ガチ中華は日本の食品産業や飲食業に影響を与えつつあること
なぜガチ中華が出現したのか、その時代的背景
ガチ中華を供するオーナーたちはどのような人たちなのか
なぜコロナ禍にもかかわらず、出店は増えたのか
最近では、すでに店舗は供給過剰、すなはちレッドオーシャン状況なのに、なぜガチ中華は増え続けるのか。その背景に中国人の日本移住の急増、すなはち「潤日」があること

筆者にとって最も意味深かったのは、多くの魅力的なガチ中華オーナーや調理人たちに出会ったことだった。

この5年間で、彼らはコロナ禍という苦境を乗り越え、大きく成長していった。

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文・写真=中村正人

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