サイエンス

2025.12.25 17:00

4時間しか睡眠を必要としない「ショートスリーパー」が存在する理由とそこに潜む危険

Shutterstock.com

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睡眠は、シンプルな「予算項目」のように扱われることが多い。つまり、毎晩8時間の睡眠が必要であり、破綻させてはならない、という考え方だ。

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ところが、ごく一部だが、この規則が当てはまらない人々がいる。一晩に4~6時間しか眠らなくても、頭の中はすっきりしていて、問題なく活動できる。さらに驚くべきことに、慢性的な睡眠不足につきものの、認知機能の低下や健康面の不調もみられない。

こうした睡眠パターンは、科学の世界では「家族性自然短眠(familial natural short sleep:FNSS)」と呼ばれている。遺伝学の分野では、15年ほど前からFNSSの研究が進み、睡眠時間は脳に組み込まれたものであることがわかった。そして、睡眠の「必要量」が人によって違う理由が明らかになってきている。

以下では、遺伝学者たちが実際に発見したこと、発見された変異が生物学的に重要な理由、そして健康やリスクについて研究からわかっていることを紹介していこう。

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ショートスリーパーの単一遺伝子はあるのか

20年にわたる人類遺伝学の進展と動物実験から、はっきりしたパターンが見てとれる。2009年に『Science』誌に発表された研究では、FNSSという特性が実際に存在することがわかった。いくつかの家系において、この特性が、既知の睡眠回路に影響する、いくつかの珍しい単一遺伝子変異によって引き起こされていることが判明したのだ。

最初に見つかった変異は、DEC2遺伝子のものだ。異常に短い睡眠時間しか必要としない母と娘、両者のこの遺伝子に、同じアミノ酸置換があったのだ。同様の変異をマウスとハエに導入すると、いずれも睡眠時間が短くなった。それだけでなく、睡眠不足への耐性も想定を超えて高くなった。この2009年の研究を皮切りに、単一の変異で哺乳類の睡眠時間を調整できることが、次々と示されていった。

ここで留意したいのは、こうした変異はごくまれなものだということだ。また、さらに重要なのは、研究で取り上げられたこの家系においても、変異は「明らかな害を伴うことなく睡眠の必要量を減らす、生物学的ショートカット」という理解にとどめることが妥当だということだ。こうした変異で超人的な存在になるわけではないし、疲労を一切感じなくなるわけでもない。

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翻訳=緒方亮/ガリレオ

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