サイエンス

2025.12.25 17:00

4時間しか睡眠を必要としない「ショートスリーパー」が存在する理由とそこに潜む危険

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その後、2019年の『Neuron』誌の研究では、別の家系において、別の遺伝子変異が明らかになった。この研究では、β1アドレナリン受容体遺伝子(ADRB1遺伝子)におけるまれな変異が、ある家系で3世代にわたって、短時間睡眠と共に受け継がれていることが示された。この変異を導入されたマウスは睡眠時間が短くなり、覚醒を促す回路が刺激に反応しやすくなった。

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3つ目となるヒトでの変異は、2020年に『Science Translational Medicine』誌で報告された。影響を受けるのは、ニューロペプチドS受容体(NPSR1)。研究結果では、睡眠時間を直接調節する覚醒経路の関与が示唆されている。

こうした3つの主要な知見を総合すると、「高機能短時間睡眠」という同じ表現型に至る可能性には、生物学的に異なる複数の経路が存在することが示唆される。

・概日リズムの調節因子(DEC2)
・神経調節物質の受容体(ADRB1)
・覚醒を促進するペプチド受容体(NPSR1)

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平易な言葉で説明すると、これらの変異は、「眠る必要がある」というシグナルを弱めるか、「起きていろ」というシグナルを強めるかのいずれかにあたると考えられる。結果として、大多数の人たちと比べて睡眠がはるかに少なくても、安定した覚醒状態を保てることになる。

ショートスリーパーは健康なのか

1つの重要な問いがある。睡眠が制限されると通常は害があるが、短時間睡眠者はそうした害を免れているのだろうか。2009年の研究では、「害を免れている」ことが示唆された。DEC2の変異が最初に見つかった人々は、睡眠時間が短くても、正常な認知機能と代謝特性を示していた。

その後、動物モデルの研究によって、睡眠時間が短くなる変異の一部に関して、通常なら睡眠不足のときに想定されるバイオマーカーが検出されない場合があるという概念が、さらに強固になった。一部のマウス研究では、FNSSにつながる変異によって、神経変性疾患まで軽減されることが示された。もっとも、こうしたマウスでの知見を人間に適用することについては、複雑かつ不完全なままだ。 

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翻訳=緒方亮/ガリレオ

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