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2026.01.12 10:15

ノーベル賞受賞者・山中伸弥が若き日に再認識した実験のおもしろさ

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あるとき、付録にアルコールランプがついていました。好奇心に突き動かされた私は、さっそくこたつの上にアルコールランプを出して燃料のアルコールを注ぎ入れました。

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まずは水を沸騰させてみようとビーカーに水を入れ、三脚台に設置してランプに火をつけます。

やがて水が沸騰を始めてビーカーの内側からボコボコと泡が噴き上がってきました。「なんでこんなふうになるんだろう? 不思議だな」と私は夢中になって眺めていました。

興奮して立ちあがったとき、アルコールランプに手が当たりました。火がついたままのアルコールランプが倒れ、燃料のアルコールがこたつの天板に広がって、そこに火がつきメラメラと燃えあがります。

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こたつの上が火の海になりました。私の叫び声に気づいた母が台所から飛んできて、押し入れから布団を引っ張り出します。

「伸弥、そっちを持って!」二人で布団をこたつにかぶせ、なんとか火を消し止めることができました。真っ黒に焦げた布団とこたつの天板を前に、母からこっぴどく叱られたことは言うまでもありません。

それは、実験の怖さを知った出来事でもありました。いつも安全を心がけていなければ、いつ事故が起こるかわからない。子どもだった私にとって、それは大きな学びでした。

そんな怖い目に遭うこともたまにありましたが、それでも科学実験をしたり、機械などを分解して観察したりすることは、私にとって心おどることでした。

予想すらできない結果になるからこそ、実験はおもしろい

大学院で犬の血圧を下げる実験をおこなったとき、これほど興奮したのは、実験に夢中になっていた子どものころ以来だったことに気づきました。

予想すらできない結果になるからこそ、実験はおもしろい。自然や生命は、つねに新しい感動を私たちにもたらしてくれるのです。

そして、そんな実験結果を報告しても、自分の立てた仮説がまちがっていたことに腹を立てたり不機嫌になったりせずに、意外な結果をいっしょに興奮して喜んでくれた指導教官もまた、根っから実験が大好きな研究者だったのだと思います。

この大学院での最初の実験によって、私は自分が研究者に向いていることを心から実感しました。

それ以来30年以上、研究者としてずっと研究をしつづけているのも、この出来事をときどき思い出しては、自分はやっぱり研究者なのだと思い直すことができるからなのです。

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文=山中伸弥/京都大学iPS細胞研究所名誉所長

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