別の例を挙げよう。
「酔っぱらった人の演技をしてください」という課題があったとする。
あなたならどうするだろう? くだを巻いたり、千鳥足で歩いたりするのではないだろうか?
しかし、実際の酔っぱらいは、ただひたすらに、必死にまっすぐ歩こうとするだけだ。「俺は(私は)酔ってなんかない」「全然、普通だ」と装いたい内心から。もちろん泥酔レベルの場合は話が変わってくるが。
こういったことも、人を観察していると、おのずと見えてくる。
「想像力」を総動員した中川大志さんの仕事
「想像力」に長けていると感じるまた別の一人に、中川大志さんがいる。
彼とは、何作もご一緒させてもらっているが、中でもライヴショー『コントと音楽』や、映画『FUNNY BUNNY』などで、負荷の高い役どころを担ってもらっている。
彼もまた、多方面にアンテナを張り、観察をし、シミュレーションを重ねる一人だ。
『FUNNY BUNNY』では、図書館に強盗に入り、ラジオ局にも強盗に入るという、一際異色の主人公を演じてもらった。実際の図書館をお借りしての撮影だったので、昼夜が逆転する現場だった。
連日、利用者が少なくなる夕方頃に入り、機材等の準備をし、閉館時間になったら撮影を開始する。
そんな現場で、彼は基本的にずっと一人でいた。
共演者ともスタッフとも、必要最低限のやり取りしか交わさず、黙々と脚本と向き合っては、「この捉え方は正しいか」「より効果的なアプローチはないか」とシミュレーションを繰り返し、自分の演技プランを磨いていた。
そういう「孤独」が必要な役どころと判断した上での振る舞いだったと思う。
異色すぎる役どころゆえ、ふだんからの観察だけでは足りない。ならばどうするかと、「想像力」を総動員してくれた彼には感謝しかない。
ものごとを、よく観察する。とくに人の立ち振る舞いや表情、その変化するさまを観察するのは、俳優に限らず、すべての人間にとって「想像力」を磨く絶好のチャンスだ。
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