2022年にChatGPTが一般公開されてから、英語の医学論文に、これまであまり使われてこなかった表現が頻出するようになった。それはChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)、いわゆる生成AIが好んで使う言い回しだ。
医学界に限らず、英語でスラスラと論文を書ける人でなければ、何かしらの翻訳ツールを使うことになるのだが、ChatGPTなどの生成AIサービスは、そんな英語を母国語としない日本の研究者にとって大きな助けになっている。それは、ChatGPTが大好きな言葉が論文に急増したことから容易に推測される。

じつは、これは日本だけの話ではない。2024年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究員アンドリュー・グレイ氏は、AIの支援で執筆された学術論文に関する論文を発表した。ChatGPTがよく使う言葉が論文に頻出するようになったことを「ChatGPT汚染」とし、近年の学術論文の語彙を解析。学術論文に急増しているChatGPT特有の表現を特定した。世界の学術界ではすでに、そんなChatGPT語が多用された論文は、ChatGPTに書かせたことがバレバレと言われるようになっているのだ。
そこで、国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部の松井健太郎医長は、医学論文での影響を検証した。2000年から2024年までに、医学系論文の検索エンジンPubMed(パブメド)に登録された2750万1542件の論文を対象に、AIに特徴的とされる135の表現(AI用語)と、医学論文で一般に使われる84の表現との使用頻度を統計的に解析した。
それによると、もっとも多く使われていたAI用語は「delve」(徹底的に調べる、掘り下げる)だった。続いて、「underscore」(強調する)、「primarily」(主として)、「meticulous」(綿密な)などとなっている。これらの単語はなにも特殊なものではない。



