宇宙

2025.12.17 10:30

早ければ2月に「人類は再び月」へ、米中ムーンレースの現時点

(c)NASA/Frank Michaux

(c)NASA/Frank Michaux

NASAはクルー4名を乗せた「オリオン宇宙船」を、早ければ2026年2月5日に月近傍に向けて打ち上げる。これが実現すればアポロ17号以来、人類は53年ぶりに月を再訪することになる。また、2026年には米民間企業による3機の無人輸送機が月面着陸に臨み、8月には中国も「嫦娥(じょうが)7号」を月南極へ送り込む。各国の月開拓プロジェクトは近年加速しており、この傾向は少なくとも米中の月面到達レースに決着がつく2020年代末まで続くと予想される。

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SLSとオリオンはすでに統合された

NASAの発表によると、オリオン宇宙船とSLSロケットの打上げは4月に予定されている。ただし、9月に行われた記者会見でNASAの担当官は、「2026年2月5日に始まる打ち上げ機会に向けて取り組んでいる」と明かし、そのスケジュールが前倒しされる可能性を示した。打ち上げ機会とはウィンドウとも呼ばれ、宇宙機を予定軌道に乗せることが可能な打ち上げ時期を意味する。ケネディ宇宙センター(フロリダ州)のロケット組立棟(VAB)では、全長98mのSLSとオリオンの統合作業がすでに完了しており、現時点ではクルーが搭乗した状態でのリハーサルがVAB内で行われている。オリオンで有人飛行が行われるのは、このアルテミスIIが初めてのミッションとなる。

オリオン宇宙船とICPS(SLSの第2段)がランデブーフライトするイメージイラスト (c)NASA/Liam Yanulis
オリオン宇宙船とICPS(SLSの第2段)がランデブーフライトするイメージイラスト (c)NASA/Liam Yanulis

アルテミスIIでは、オリオン宇宙船を月への軌道に乗せる前に、地球周回軌道上でドッキングのデモンストレーションが行われる。打ち上げられたオリオンは、まずは高度185km×2253km(周期90分)の地球周回軌道に投入され、2周目に入るところでエンジンが再点火されると、さらに遠地点が高い185km×7万4030km(周期23.5時間)の楕円軌道に入る。その後、SLSの第2段(ICPS:暫定極低温推進ステージ)を分離するとクルーの手動操縦に切り替えられ、ランデブー飛行する第2段をターゲットに見立てながら軌道上ドッキングのデモが行われる。アルテミスIIではドッキングは行わないが、後続ミッションでは月着陸機とのドッキングが必要になる。これはそのための予行演習であり、アルテミスIIの見どころのひとつとなる。

アルテミスIIのインフォグラフ。右にあるのがドッキングを想定したデモのシーケンス (c)NASA
アルテミスIIのインフォグラフ。右にあるのがドッキングを想定したデモのシーケンス (c)NASA

地球周回軌道上を航行する有人宇宙船が遠地点7万4030kmという高軌道に達するのは史上初となる。2024年には民間ミッション「ポラリス・ドーン」によって1408kmが記録されたが、アルテミスIIでの高度はその53倍に達し、それはISS(国際宇宙ステーション)の軌道高度の176倍、静止軌道の2倍におよぶ。初期軌道としてこの極端な楕円軌道が採用されるのは、クルーの安全を最大限に確保するためだ。地球周回軌道上で生命維持装置、航法、通信などのシステムのチェックを行えば、何かしらの問題が発生しても短時間でクルー帰還させることが可能になる。

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編集=安井克至

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