こうした動きに対抗するために米政府は、有人月面着陸用スターシップの代替機を用意するために新たな入札を実施すると10月に発表。その候補としてはジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンの月面輸送機が筆頭に挙げられている。ブルーオリジンでは現在、2機種の月着陸機を開発・製造している。1機は無人月面輸送機の「ブルームーンMK1」、もう1機は有人月着陸機の「ブルームーンMK2」だ。スターシップの代替機になり得るのは有人機であるブルームーンMK2だが、このモデルは2030年に予定されるアルテミスVに選定されているものの、アルテミスIIIに間に合わせることは難しい。しかし、無人機であるブルームーンMK1は2026年初旬に初飛行が予定され、月の南極域に着陸する予定だ。NASAとブルーオリジンはこのMK1型を有人仕様に改造しようとしており、すでにその改修作業に着手している。
ただし、アルテミスIIIの本来予定である2027年はもちろん、トランプの任期期限である2029年1月までにも十分な時間はなく、MK1の改造が米国のジレンマをすぐさま解消するわけではない。
ブルームーンMK1は、NASAの月開発事業であるCLPS(商業月面輸送サービス)に選定され、NASAの研究用ステレオカメラ(SCALPSS)を610万ドル(約9億4550万円)で月面に輸送する契約を結んでいる。また7月以降には、同じくCLPSに選定されているアストロボティックの「グリフィン1」が月南極域への着陸に挑戦する。さらに2026年の後半には、やはりCLPSによるファイアフライの「ブルーゴーストM2」も打ち上げられ、米国機としては初めて月の裏側への着陸に挑戦する予定だ。
こうした米中のムーンレースが展開されるなか、その鍵を握るスターシップの開発進捗には引き続き注目が集まるが、2026年は軌道上燃料補給のテストに留まると見込まれている。また、米ポリティコが入手したというスペースXの内部文書によると、スターシップの無人月着陸テストは2027年6月ごろに予定され、月面への有人ミッションは早くても2028年9月になるという。この見積もりがNASAと共有されれば、近日中にNASAのスケジュールが正式に更新されることになるだろう。


