トータル10日間のミッション
オリオンのシステムチェックがすべて完了すると、オリオンに接続したサービスモジュールのエンジンが噴射され、4日間かけて月に向かう。2022年に実施されたアルテミスIでは、無人のオリオンが月からの高度130kmをフライバイ(近接通過)して地球に帰還したが、アルテミスIIでは月の裏側を高度6400~9600kmでフライバイする。その後、推進装置を作動しなくても地球の重力によって引き戻される自由帰還軌道に入り、打ち上げから10日後に太平洋へ着水する。
オリオンに搭乗するのはNASA所属のリード・ワイズマン(司令官、2回目の宇宙ミッション)、ビクター・グローバー(パイロット、2回目)、クリスティーナ・コッホ(2回目)と、CSA(カナダ宇宙庁)所属のジェレミー・ハンセン(1回目)の計4名。このミッションに成功すればコッホ氏は月近傍を訪れた初めての女性となり、グローバー氏は白人以外の初の人物、ハンセン氏は米国人以外の初の人物となる。
予定軌道にオリオンを投入し、予定のポイントに着水させるには、2月4日から12日までに打ち上げる必要がある。しかし、その打ち上げウィンドウは1日に30分程度と短い。もしこの機会を逃せば、打ち上げは1カ月単位で延びることになる。
アルテミスIIは当初2023年に予定されていたが、すでに2年以上遅延している。また、米国人を月面に着陸させるアルテミスIIIは2027年に予定されているが、着陸機に選定されているスペースXの「スターシップ」の開発遅延によって大幅に遅れている。スターシップの新仕様機(バージョン3)の初飛行テスト(IFT 12)は12月に予定されていたが、11月22日に発生した地上での爆発事故によって2026年第1四半期までずれ込む見通しだ。
米中の月面到達レースとCLPS
なんとしても中国より先にクルーを月面に送り込もうとする米政府は、トランプ大統領の任期中である2029年1月までに有人月面着陸を実施しようとしているが、現時点でその目途は立っていない。一方で中国は、2030年に予定している有人月面ミッションを前倒ししようとしている。中国は2020年、無人探査機「嫦娥5号」によって中国初の月サンプルリターンを成功させ、2024年6月には「嫦娥6号」で史上初となる月裏側からのサンプルリターンを実現するなど、眈々と月開拓の準備を進めており、2026年8月には「嫦娥7号」を月南極域に着陸させる予定だ。これらのミッションはすべて月面基地「国際月科学研究ステーション(ILRS)」を建設するための布石であり、総合的なプロジェクトの進捗具合は米国より円滑だという意見が米議員からも聞こえてくる。


