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2025.12.16 11:30

映画『アバター』最新作で注目、ジェームズ・キャメロン監督がビリオネアに

映画監督ジェームズ・キャメロン(Photo by Pierre Suu/WireImage)

独自の技術開発に資金を投じ、『アバター』で映画ビジネスの常識を変える

しかし、これほどの成功を収めたにもかかわらず、フォックスは当初、キャメロンの次回作を断っていた。それは、すべてがデジタル技術で創り出された惑星を舞台とする壮大なSF映画だった。キャメロン自身が認めているように、彼が思い描いた形で『アバター』を実現するための技術は、当時まだ存在していなかった。その創作上の課題は、やがて彼が新たに設立したデジタル映像制作会社デジタル・ドメインにとって、経済的な課題へと変わっていく。

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『タイタニック』でキャメロンの右腕となり、2024年7月に亡くなるまで共に仕事を続けたプロデューサーのジョン・ランドーは、死後に出版された回想録の中で、フォックスとの契約に基づいて割り当てられていた研究開発費1000万ドル(約15億5000万円)を、キャメロンの制作チームが初年度のうちにすべて使い切ったと記している。

俳優の演技を反映する3Dカメラや「シミュルカム」技術を開発・完成させる

しかしキャメロンは、自身のやり方を貫いた。1400万ドル(約21億円)を投じて、彼は協力者たちとともに新たな3Dカメラシステムを開発。ウェタ・デジタルのフェイシャルキャプチャー技術向けにヘッドリグを開発し、俳優の演技をデジタルキャラクターに正確に反映できるようにした。ジャイアント・スタジオズの協力を得て、撮影中のデジタルキャラクターをデジタル環境の中でリアルタイムに確認できる「シミュルカム」技術も完成させた。

「彼は毎日のように新しいツールを開発し、別の何かを完成させていた」と、当時ジャイアント・スタジオズのCEOだったキャンディス・アルジャーは語る。「私は多くの監督と仕事をしてきたが、テクノロジーにこれほど深く関与する人物は見たことがない。多くの監督は技術を単なる道具として扱い、それを使いこなせる人材を周囲に集める。だが、ジムは常に自分自身が現場に入り込む」。

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2009年、『アバター』は世界興行収入で約4650億円を獲得

2009年、『アバター』は世界興行収入で約30億ドル(約4650億円)を稼ぎ出し、興行の常識を打ち破った。フォックスは失敗時のリスクを抑えるため、製作費の60%について外部資金を導入しており、その結果、複数の投資家が大きな利益を手にした。プライベートエクイティのデューン・キャピタル・マネジメントもその1社だ。

デビッド・ベッカム、サシャ・バロン・コーエン、ピーター・ガブリエル、ガイ・リッチーなど数十人の英国著名人で構成される投資コンソーシアム、インジニアス・メディアも、約7500万ドル(約116億円)の投資に対し、約4億ドル(約620億円)の利益を分け合ったと報じられている。

キャメロンの収入は約542億円超、知的財産権も活用

フォーブスは、9部門でアカデミー賞にノミネートされ、視覚効果賞を含む3部門を受賞した『アバター』第1作によって、キャメロンが劇場興行とホームビデオ販売から得た収入が、3億5000万ドル(約542億円)超に上ると推定している。キャメロンとライトストームは、原作のIP(知的財産権)を保有していたため、玩具や関連商品、米フロリダ州オーランドのディズニー・アニマル・キングダム内のアトラクションに関するライセンス契約を通じて、その後も毎年数百万ドル(数億円)規模の収入を得てきた。

環境保護や技術ベンチャーに投資し、アバター続編の製作にも挑む

こうして得た資金は、キャメロンが別の取り組みに投資することを可能にした。彼は、環境保護の分野では、2012年にニュージーランド拠点のキャメロン・ファミリー・ファームズを共同設立し、2013年には気候問題に関する助言団体「アバター・アライアンス・ファウンデーション」を、2017年には植物由来食品会社ヴァーディエントを立ち上げた。深海探査にも力を注ぎ、数々の水中探検の中でも、マリアナ海溝の最深部に到達したことで広く知られている。

キャメロンは現在、ニュージーランドに居住している。2020年にカリフォルニアを離れる際に複数の不動産を売却した彼は、同国では3000エーカー超の土地を所有していると報じられている。

キャメロンのテクノロジーへの関心は、近年では自身が率いる映像技術ベンチャー、Lightstorm Vision(ライトストーム・ビジョン)として具現化した。同社は2024年12月に、メタと複数年のパートナーシップを結び、同社のVR機器「メタ・クエスト」をプラットフォームとした3Dエンターテインメント制作や制作ツールの普及に乗り出している。また2024年9月にキャメロンは、画像や動画生成AIの「ステーブル・ディフュージョン」を手がけるスタビリティAIの取締役会にも加わっている。

それでも、彼の映画制作への意欲が衰えることは1度もなかった。『アバター』の続編2本がゴーサインを得た後、キャメロンは2022年公開の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のために、約10年をかけて新たな水中撮影技術の開発に取り組んだ。世界興行収入23億ドル(約3565億円)を記録したこの作品で、キャメロンは約2億5000万ドル(約387億円)を手にした。

「とてつもない費用」がかかる続編群を実現するため、興行での成功を追求

『アバター:ファイア・アンド・アッシュ』の公開を控えた最近の取材で、キャメロンは第4作と第5作の構想があることを明言している。ただし、次の続編群が正式に承認されるためには、今回の作品も再び興行面で結果を示す必要があるとの認識を示した。本人の言葉を借りれば、各作品の製作には「とてつもない費用」がかかるうえ、相当な時間も必要になる。それは、舞台劇のように俳優の演技をリアルタイムで収録し、その後の編集やポストプロダクションの工程で、撮影や画づくりをデジタルで構築する手法を取っているためだ。

「正直、かなり常軌を逸していると思うよ」とキャメロンは最近、自身の制作スタイルについて語っている。「最初の作品であれだけ莫大な金を稼いでいなければ、こんなことは絶対にやっていない。つまり、それくらい無茶なんだ」。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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