テクノロジー

2025.12.12 11:00

アップルの「iMessage」にプーチンが手を出せない理由

ロシアのプーチン政権は米アップルのビデオ通話アプリ「FaceTime」を禁止する一方、メッセージアプリの「iMessage」は規制していないようだ=写真ゲッティ

ロシアのプーチン政権は米アップルのビデオ通話アプリ「FaceTime」を禁止する一方、メッセージアプリの「iMessage」は規制していないようだ=写真ゲッティ

ロシアは米国のテクノロジーに対する締め付けを強めている。メタのメッセージアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」は「法律違反や非合法活動への利用」を理由に段階的に排除されており、このほどアップルのビデオ通話アプリ「FaceTime(フェイスタイム)」も禁止された。ロシアの通信規制当局ロスコムナゾールはFaceTimeについて「国内でのテロ攻撃の組織・実行、実行犯の勧誘、ロシア国民に対する詐欺やその他の犯罪行為に利用されている」と主張している。

advertisement

だが、同じくアップルのメッセージアプリ「iMessage(アイメッセージ)」は引き続き使える状態にある。画像共有アプリ「Snapchat(スナップチャット)」でさえ新たに規制対象になったというのに、アップル内製の完全に暗号化されたメッセージアプリはそれを免れたようだ。テック系ブログ「Daring Fireball」を運営するジョン・グルーバーは、ロシア当局によるFaceTimeの禁止を「ロシアの犯罪率はたちまち急落するはずだ」と皮肉りつつ、「なぜiMessageもブロックされないのか不思議だ」と言い添えている。

最もありそうな答えを「Mastodon(マストドン)」のあるユーザーが示している。どうやらアップルはiMessageをリリースした際、携帯電話キャリアの目をかいくぐる形でシステムに組み込み、キャリア自体が運営するショートメーッセージサービスを弱体化させていたらしい。iMessageはiPhone(アイフォーン)のプッシュ通知と同じプラットフォーム上で動いており、これは当時、iPhone独自の大きな売りだった。iMessageとiPhoneのプッシュ通知は切り離せず、iMessageを遮断しようとすると、iPhoneのプッシュ通知サービスで動作するほかのアプリの通知も機能しなくなるおそれがあるのだ。

機内Wi-Fiを利用しているときに、メッセージアプリ自体がネットにつながっていなくても、そのプッシュ通知は届くのも同じ理由のようだ。

advertisement

暗号化メッセージには規制強化の波

今後の動向にも注意する必要がある。暗号化メッセージはロシアに限らず、各国・地域で規制案や法律案の嵐にさらされている。たとえば欧州連合(EU)は通信内容のスキャンをサービス提供者に義務づける規制案、通称「チャットコントロール」を進めており、これは懸念すべき長い動きの始まりのように見える。英国もアップルのクラウドストレージサービス「iCloud(アイクラウド)」の「高度なデータ保護」ポルノサイトの規制に続き、クラウドストレージ全般を監視したがっている。

iMessageは非常に優れたサービスだ。複数のプラットフォーム上で動作するクロスプラットフォームで、完全にエンドツーエンド暗号化(E2EE)されたその仕組みは、業界最高クラスと言ってもいいだろう。それでも、セキュリティー面で依然として大きな穴がある。iPhoneと、グーグルの基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」を搭載したデバイス間で、安全にメッセージをやり取りする方法がいまだにないのだ。WhatsAppはそれを10年近く前に実現しており、もう2025年なのだから、いい加減この状況は変えるべきだ。

iMessageがロシアのウラジーミル・プーチン政権による禁止を免れた理由について、前出の説明はもっともらしいが、ロシアがアップルユーザー同士の暗号化通信を妨害する手段はほかにもある。もっとも、米国以外のほとんどの国ではiMessageはWhatsAppほど使われておらず、ほかの数多くのメッセージアプリのひとつにすぎないのが実情だ。プーチンやその検閲当局者は、そもそもiMessageのことをたいして気にしていないだけなのかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事