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2025.12.12 17:00

「たくさんの小さな喜び vs 数回の大きな喜び」人を幸せにするのはどっち?──心理学者の回答

日々のささやかな喜び──マイクロジョイは、その限りの幸福感では終わらない。あらゆる意味で人生における「幸福の燃料」となる(Shutterstock.com)

マイクロジョイの見つけ方

臨床心理学では、「小さくともやりがいのある活動」が、ポジティブな感情を高めることがわかっている。たとえばエビデンスに基づくうつ病治療法である行動活性化療法では、患者に最初はごく小さなことでよいので自分でコントロールできるポジティブな行動にとり組むよう促し、生活のなかにマイクロジョイ体験を組み込んでもらう。

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2021年の文献レビューでは、患者の活動量と日々のマイクロジョイ体験を増やすというこの一見シンプルな治療法が、うつ病の症状を着実に軽減させることが確認されている。

つまりこの治療法では「患者の気分が晴れるのを待ってから、行動を変えてもらう」のではなく、まず先に日々の行動を少しずつ変えるよう促し、そこで得たマイクロジョイを回復の原動力としているのだ。しかもこうしたマイクロジョイの恩恵はメンタルヘルスにとどまらず、日常生活や仕事での生産性にも良い影響を与える。

ハーバード大学の名誉教授テレサ・アマビールと心理学者スティーブン・クレイマーの研究(共著「マネジャーの最も大切な仕事──95%の人が見過ごす小さな進捗の力 The Progress Principle」)によると、小さな進歩や日々積み重なる小さな成功体験は、職場でのモチベーションや幸福感に大きな影響を与えるという。

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同研究でわかったのは、たとえ小さなステップでも人は前進を感じられたときに活力を得るという事実だ。この前進の感覚は、時折起こる大きな成功では得られないポジティブな気分や自信、仕事への意欲をもたらす。

これらが、小さな目標達成(と、それによって得られるマイクロジョイ)が、時々しか起こらない大きな目標達成よりもパワフルである主な理由だ。小さな目標は行動に移しやすいため、毎日実践すれば、毎日小さな「前進」を感じられる。

注目すべきは、日常の幸福度を高めるためにはポジティブな瞬間の「頻度」だけでなく、その「体験の仕方」も重要であるという点だ。ポジティブな経験を意識的に長くする「味わい」戦略は、マイクロジョイの効果を増幅させる。研究では、この単純な「味わい」戦略がポジティブな感情を高め、ストレスを感じた後の対処能力を向上させることがわかっている。

「味わい」戦略は、「楽しみに待つ」「その楽しい瞬間に完全に集中する」「思い出して追体験する」の3つの方法で実践できる。いずれの方法もポジティブな感情を高め、前述のフレドリクソンが提唱する心理的資源の構築につながる。

もう一つ、確かなエビデンスに基づいた、手軽なマイクロジョイの実践法は「感謝」だ。その効果は、参加者に週ごと、または日ごとに感謝すべき事柄を書き出してもらう比較実験で実証されている。実験結果では、感謝の気持ちを記録したグループはそうでないグループと比べて幸福度が高く、楽観的になり、睡眠の質も向上していた。

「感謝」が力を発揮するのは、普段なら見過ごしてしまう小さな幸せに気づけるようになるからだ。ささやかな喜びが目に見える形になったとき、私たちの心はそれがかけがえのない瞬間であることに気づく。

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翻訳=猪股るー

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