2025.12.12 14:15

LEXUSの五感のオーケストラ、あるいは竹の香りのする電気自動車について

ESとRZ、それぞれが描く電気自動車の未来

ただし、LEXUSが提示したのは一つの未来像ではなかった。新型ESと新型RZ、二つのまったく異なるアプローチが同時に示されたのだ。

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新型ES
新型ES
ライブで描かれた新型ESのデザインスケッチ
ライブで描かれた新型ESのデザインスケッチ

新型ESはLEXUSの基幹モデルとしての風格を持つ。全面刷新を遂げた8代目は、伝統と革新の融合を体現している。一方、新型モデルRZは極めて未来的な電気自動車として、まったく違うアプローチを取る。

RZに搭載された「インタラクティブマニュアルドライブ(iMD)」は、電気自動車に新しい「声」を与える試みだ。アクセルを踏むと、これまでにない「走っている」ことを感じさせる音が響く。シフトアップ、シフトダウンに合わせて音が変化し、専用のシフトガイドメーターが視覚的にも変化を教えてくれる。

無音で走るEVにあえて音を与える。矛盾? いや、これは新しい音の体験を創造している。深夜のドライブで好きな音楽と道路のリズムがシンクロする、あの瞬間のような一体感を作り出している。

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さらにRZには、革新的な技術が搭載されていた。ステアバイワイヤシステムだ。従来の車はステアリングホイールとタイヤが物理的にギアやシャフトでつながっているが、このシステムでは違う。

新型RZ
新型RZ
新型RZの異形ステアリング
新型RZの異形ステアリング

ステアリングの操作を電気信号に変換し、その信号でタイヤの向きを制御する。機械的な結合がないから、ハンドルを左右約200度回すだけで済むように設計できるし、路面状況やドライブモードに応じて変化させることも理論的には可能。駐車時に何度もハンドルを切り返す、あの面倒な動作が不要になる未来がそこにある。

なぜRZにこの技術を搭載したのか。電気自動車は元々、モーターで動くから電子制御との相性がいい。でもそれ以上に、LEXUSが考える「クルマとの対話」を実現するには、運転操作そのものを再定義する必要があったのだろう。車速に応じてタイヤの切れ角を変える、ドライバーの好みに応じて反応を調整する。将来的には自動運転との切り替えもスムーズになる。

2026年春、移動時間の質が変わる

これらの技術と体験が、実際に私たちの日常になる日は、そう遠くない。新型ESは2026年春頃、日本での発売を予定している。

五感体験をテーマにしたトークセッションで、MCに「体験設計の前提として、LEXUSのオリジナリティはどこにあるのでしょう?」と振られたLEXUSのデザイン担当者は、「アイデンティティは日本らしさ。『未知なる日本』をテーマに探索を続けてきました」と答えた。和洋の枠を超えた、新しい日本の表現がそこにある。

このイベントでLEXUSが提示したのは車という枠を超えた体験設計の可能性だ。

どんなビジネスも、機能や性能の競争はいずれ頭打ちになる。そのとき何で差別化するか。五感に訴える体験、記憶に残る時間、そして環境との調和。美山荘とのコラボレーションが示すように、異業種との掛け算が新しい価値を生む。

移動時間を「失われた時間」と考えるか、「感覚を開く時間」と再定義するか。その発想の転換は、オフィスでの会議時間にも、顧客との商談時間にも応用できるはずだ。香りが記憶のトリガーになるなら、自社のブランド体験にも香りを取り入れられるかもしれない。

これまで日本的な要素をプロダクトに取り入れる試みは、どこか表層的だった。竹といえば和風旅館のインテリア、香りといえば線香や抹茶。でもLEXUSが示したのは、竹をサステナブル素材として科学的に再解釈し、香りを時間体験のインターフェースとして実装するという、まったく新しいアプローチだった。新型ESという量産車にこれらが搭載されるということは、日本発のラグジュアリーがいよいよコンセプトから実装のフェーズに入ったということだ。

text by Tsuzumi Aoyama

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