PARaDE代表の中川淳が、企業やブランドの何気ない“モノ・コト”から感じられるライフスタンスを読み解く連載。今回は熊本県 阿蘇の田舎町、 南小国にあるカフェ「喫茶 竹の熊」を訪れた中川が感じた、カンパニーストラクチャーの重要性と日本の林業のあるべき姿に迫る。
水庭にせり出した開放感のある板の間に腰掛けると、豊かな田園風景と美しい阿蘇の里山が一望できる。抜ける風がなんとも気持ちよく、心洗われる空間だ。ここは熊本県阿蘇郡 南小国町。阿蘇の山間にある人口4000人の小さな町のカフェ「喫茶 竹の熊」である。
辺りには何もなく、訪れた日は雨だったにもかかわらず人が列をなし、インスタグラムでは4万人以上のフォロワーを集めるほどの人気ぶりだ。運営するのは地元で製材業を営む穴井木材工場の関連会社Foreque(フォレック)である。小国杉を活用したインテリア・ライフスタイルブランド「FIL」や、オリジナルのクラフトビールやサイダー、米、トレーナーなども展開している。さらに保育園から中学校の子どもたちに木材を使ったカリキュラムを実施し、食育ならぬ「木育」にも力を入れている。
ここまで聞くと、地方の元気な会社がお洒落カフェをつくって、事業の多角化に成功している好例と思われるかもしれない。でも私の捉え方は違った。単なる事業の多角化ではなく、「地元の林業を持続可能にする」という1点に向けて張り巡らされた、有機的かつ戦略的な「カンパニーストラクチャー」を感じたのだ。
同社は山から木を伐り、製材し、建材や家具に加工するという林業における「当たり前の仕事」を続けているが、山で伐った木材を市場に出しても価格が安すぎて利益が出せない。だから彼らは市場には出さず、顧客と直接つながる道を選んだ。そうなると、彼らのところで木材を買う明確な理由が必要だが、木材そのもののクオリティだけでの差別化は難しいところだ。
そんな状況を打開すべく、彼らはどのような付加価値をつけて木材を活用すれば世間に影響力をもてたり、社会の役に立てるのかを熟考し、インテリアブランドやカフェなどというかたちで実例を示した。それらはショーケースとなり、同じように素敵なモノをつくりたいという取引先を増やしていった。すべては“林業をまわすための入り口”として機能しているのだ。彼らの多角化は表層的に儲けを追求するのではなく、「ビジョン達成の問題解決としての多角化」と言えるだろう。



