カルチャー

2025.12.15 16:45

ただのお洒落カフェではない。阿蘇の製材所が示す「カンパニーストラクチャー」の重要性

私はさまざまな会社の経営支援を行うなかで、カンパニーストラクチャーを整えることを推奨している。カンパニーストラクチャーとは、ビジョンと事業の論理整合性を説明し、すべての業務がどのようにビジョンに貢献しているかを整理して可視化するものだ。

中川が経営指導する際に用いる資料より抜粋
中川が経営指導する際に用いる資料より抜粋

それは整体のようなもので、ビジョンやパーパスが「背骨」だとするならば、組織能力は「筋肉」。いくら優秀な筋肉があっても、背骨が歪んでいれば、力は正しく発揮されない。ビジョン達成のために、なぜこの事業が必要なのかを明確にすることで、社員一人ひとりの仕事が、大きな目標に繋がっていることを実感できる。

ビジョンはある。だが現場の仕事がそれにつながっているかは不明……。そんな企業が多い中、穴井木材工場・Forequeはコーポレートストラクチャーが息づき、社員全員が「自分たちはなぜこれをやっているのか」を理解した上で動けるようになっており、結果的に独自性や事業の多角化を実現しているのだ。

「林業って、木を植えてから伐るまで80年かかるんですよね」。そう話すのは穴井木材工場・Foreque 代表取締役の穴井千秋さんだ。

もう一つ同社に魅力を感じる点が、長い時間軸を元に思考し、意思決定をしていること。林業が抱える問題は、短期的な経済合理性では解決しない。木を植えて、伐って、次の世代に引き継ぐ。その循環に最低でも80年かかるということは、今儲かるかどうかではなく、80年分の損益計算書をどう作るかという視点が不可欠となる。

会社の「背骨」は伸びているか?

穴井さんは製材業としての仕事だけではなく、山を守るために周辺の事業者とも連携し、仕事を分け合っている。また地元の学校教育にも関わり、林業に触れる木育体験の中で、子どもたちが将来「林業に就きたい」と思うようになる環境も育んでいる。

昭和39年より製材業を営む穴井木材工場・Forequeの代表取締役 穴井千秋
昭和39年より製材業を営む穴井木材工場・Forequeの代表取締役 穴井千秋

さらに興味深いのは、地域ごとの林業を尊重するスタンスだ。日本の林業全体を変えるという壮大なものではなく、「地元の阿蘇の林業を、持続可能なものにする」という身近なことに集中している。だがその姿勢が、結果的に全国の林業関係者のヒントとなり、視察や講演依頼が後を絶たないという。

ライフスタンスはビジョンが戦略的にブレイクダウンされたカンパニーストラクチャーによって具現化され、じわじわと発露していくものだ。穴井木材工場・Forequeは地元の林業を長期的に持続させるための手段として、成長戦略や収益多元化とは違う事業の多角化を行い、身近なものを大切にしながら、着実に未来を切り拓いている。

あなたの会社の「背骨」は、長期的な視座のもと、果たしてまっすぐに未来へと伸びているだろうか。「筋肉」は正しく使われて十分に機能しているだろうか。小さな町の小さな製材所がその尊さを身を以て教えてくれ、社会に大きなインパクトをもたらす火種を生み出している。

連載:拡がる“ライフスタンス”エコノミー
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文=中川淳 構成=国府田淳 写真=haruki anami 編集=松崎美和子

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