既存インフラを活用した「物流の再構築」
こうして新しい仕組みに向けた座組みは整ったものの、実行の前に立ちはだかったのが「物流コスト」という壁だ。通常の宅急便を使えば、遠隔地への食品の配送は高額になる。「例えば北海道から沖縄へ1箱送るだけで4000円近いコストがかかるケースもある」と木戸は試算する。これでは、せっかく予算化しても資金の多くが物流費に消えてしまう。
そこでネッスーは、ここでも「既存資産の活用」という思考で解を見つける。目をつけたのは、全国の卸売市場や農協(JA)が持つ幹線輸送網だ。「農協が市場に物を送るトラックは毎日走っている」。全国各地の市場で売買参加権を取得することで、この輸送網を利用し、全国へ物資を運ぶルートを一から開拓した。
「このネットワークを使えば、送料を数百円台にまで抑えることが可能です。1億円の寄付が集まったとき、物流費で半分が消えるのか、それとも大半を物資の購入に充てられるのか。この資金効率の違いが、支援の規模を決定づけます」
いつものふるさと納税が、そのまま「こどもの支援」になる理由
当初、ネッスーは「企業版ふるさと納税」を活用したこども支援の展開を模索していたが、企業の論理や決裁の壁に直面し、思うように支援が広がらない現実に突き当たった。転機となったのは、旭川市での実証実験だ。クラウドファンディング型のふるさと納税を導入したところ、その趣旨が多くの個人の共感を呼び、当初の目標金額を大幅に超える3000万円近い支援が集まったのである。
「理屈」よりも、個人の「応援したい」という感情のほうが、はるかにスピーディーかつダイレクトに支援につながる──。この確信が、現在の個人向けポータルサイトの開設を決定づけた。
「こどもふるさと便」では自治体と協力し、寄付者が負担を感じずにこどもの支援に参加できる仕組みも構築している。
通常のふるさと納税と同様、寄付募集にかかる経費(返礼品代など)は総務省の定める上限50%以内に収めつつ、集まった寄付金の中から自治体が「こどもたちへの特産品」を購入して届ける。これにより、寄付者は他のサイトと同じ寄付額で同じ返礼品を受け取りながら、実質的な負担増なしでこどもたちを支援できるのだ。
「日本には寄付文化がまだ根付いていません。その中で自己負担を求めると、参加のハードルが上がってしまう。だからこそ、支援を『合理的な選択』としてデザインし、誰もが参加しやすい形にすることで、支援の輪を広げていきたいのです」


