欧州

2025.12.09 09:30

冬の悪天候でロシア軍が優位に ウクライナ東部

ウクライナ東部ドネツィク州コスチャンチニウカで射撃の準備を整えるウクライナ軍兵士。2025年10月16日撮影(Kostiantyn Liberov/Libkos/Getty Images)

FPV無人機が標的に到達するまでには7~10分かかるが、これは敵が複数回方向転換するのに十分な時間を与えることになる。ハルカビーは、無人機は「標的に追いつくのに10分かかる。その間に標的は5回も方向を変えられる」と語った。一方、砲兵は目標を定めれば30秒以内に砲弾を着弾させることができる。

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米紙ウォールストリート・ジャーナルは、ポクロウシクでは上空での無人機活動が常態化しており、ウクライナ軍の1機に対しロシア軍機は最大10機に達していると報じた。トカチェンコはこの状態を認めた。「近隣の町では、ロシア軍はたった1日で37機の『シャヘド(訳注:同軍が使用するイラン製無人機)』を発射した。これがまさにわれわれが直面している飽和状態だ」

ロシア軍の戦略

米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)に寄稿したオーストラリア陸軍退役少将ミック・ライアンは、小規模部隊がウクライナ防衛線の弱点を組織的に探るロシア軍の手法について説明した。ライアンの分析によれば、ウクライナ軍の陣地は最大1000メートル離れて配置され、通常は深さのある陣地を欠いている。ロシア軍は段差を発見すると、即座に歩兵と無人機を投入し、特に司令部と無人機作戦所を標的とする。ライアンは、段差がない場合にはロシア軍は滑空爆弾やシャヘド無人機さえも用いて、特に市街地で突破口を開こうとしていると指摘する。

ウクライナ第68猟兵旅団の司令官は11月19日、自国メディア「ススピリネ」に対し、ロシア軍がポクロウシクで破壊工作・偵察部隊のように活動し、民間人に変装することでウクライナ軍の防衛活動を複雑化させていると語った。トカチェンコ指揮官は次のように述べた。「ロシア軍は位置を特定したら、それを消去する。それが大砲のこともあれば、誘導爆弾の時もある。同じ機会は二度と訪れない」

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侵入ができない場合、ロシア軍は特に都市環境で、滑空爆弾やシャヘド無人機を用いて突破口を開く。ロシア軍の悪天候に支えられた侵入作戦と圧倒的な砲撃力により、ウクライナ軍は危険な状況に追い込まれている。

360度の戦い

戦場の現実により、ウクライナ軍は従来の役割を超えて適応することを余儀なくされている。トカチェンコ指揮官は「FPV無人機の操縦者は長距離では極めて効果的だが、敵が自分の陣地に到達したら意味がない」と言う。その結果が、トカチェンコ指揮官が「360度」の戦いと呼ぶものだ。「もはや安全な方向など存在しない」

ウクライナ軍は困難な状況にもかかわらず、一定の作戦上の機動性を維持している。兵士らによると、ポクロウシクへの一部の道路は依然通行可能だという。皮肉なことに、ロシア軍の侵入を助けたのと同じ濃霧が、ウクライナ軍がミルノフラト包囲網に兵士を交代で投入することを可能にしている。トカチェンコ指揮官は「発砲の頻度は状況次第だ。敵を発見し、空が晴れていれば、つまり音も視覚的な手がかりもなければ、われわれの出番だ」と語った。

だが、こうした窓は狭まりつつある。ロシア軍無人機の飽和状態が拡大し、冬が深まる中、ウクライナ軍は戦略的ジレンマに直面している。無人機の飛行が困難で、敵軍の侵入を許す天候下では、無人機を多用したウクライナの防衛戦略は機能しないのだ。これを解決するには、前線を維持するための歩兵の増員と、無人機を運用できない場合でも機動できる従来の砲兵隊の増強が必要となる。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

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