ウクライナ東部に濃霧が立ち込め、危険が迫っている。ウクライナ軍にとって、前線を覆う深い霧はロシア軍と同じくらい手強い敵となっている。濃霧はウクライナ軍の主要な防衛手段である無人機(ドローン)の飛行を妨げ、敵軍の小部隊の侵入を許すからだ。こうした天候条件に加え、ウクライナ軍は人手不足にも陥っている。
最近までウクライナ東部ポクロウシクで戦闘を続けていた同国の第92独立突撃旅団迫撃砲部隊のアナトリー・トカチェンコ指揮官は筆者の取材で次のように語った。「この霧の中では、ロシア軍は教科書通りには動かない。同軍は開けた野原を横切り、突然、われわれの後方8~10キロ辺りに姿を現す」
この戦術的転換は、ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を展開する上で大きな進化を遂げたことを示している。同軍はここ数週間、濃霧や降雨、低く立ち込める雲といった視界不良の状況を利用し、ウクライナ軍の無人機による監視や攻撃の可能性を大幅に減らしながら前進してきた。一方のウクライナ軍は人員不足を補うため、無人機への依存度を高めてきたが、悪天候の影響で決定的な優位性が一時的にせよ失われた。
無人機依存のジレンマ
数百キロに及ぶ前線に歩兵部隊が薄く分散配置される中、ウクライナ軍は戦力増強手段として無人機部隊に頼るようになった。無人機計画責任者のマリヤ・ベルリンシカは10月、前線1キロにつき平均わずか4~7人のウクライナ歩兵が警備していると説明していた。
この人員が手薄な防衛体制は、前進するロシア軍を検知し攻撃するために、空中監視と一人称視点(FPV)無人機に大きく依存している。だが、悪天候によって視界がさえぎられ、無人機の運用に支障を来している。その結果、双方とも補給や負傷者の避難、自由な移動の機会を得ることになるが、数的優位にあるロシア軍の方が大きな利益を得ることになる。
トカチェンコ指揮官は「砲撃の頻度を減らしたのは、空に何もなくなるということは決してないからだ。偵察無人機や調整無人機など、常に何かが飛んでいる」と説明。その上で、自らが指揮する迫撃砲部隊は「霧や雨、雪が降っている時」のみ機能すると述べた。
ウクライナ第413独立無人システム大隊の無人機操縦士ドミトロ・ズルクテンコは、悪天候がウクライナ軍の活動に及ぼす影響について説明した。「われわれの戦術は無人機に大きく依存しており、東部ドネツィク州のこのような天候は既に防衛を著しく困難にしている。歩兵が不足しており、われわれの担当区域では、無人機操縦士が小火器による戦闘に巻き込まれる事例もあった。明らかに、これは実際の無人機操縦能力を低下させる。操縦士は飛行に集中する代わりに、生き延びることを考えざるを得なくなるからだ」
英経済誌エコノミストが10月に報じたように、ウクライナの砲兵部隊は現在、砲口の発光をロシア軍の無人機から隠すため、地中深くに掘られた射撃陣地から作戦を展開している。これらの塹壕(ざんごう)は木の葉で覆われた落とし戸の下に隠されており、隊員は射撃する間だけ地上に出て、その後再び地下に戻る。
筆者の取材に応じたウクライナ第110独立機械化旅団無人システム大隊の無人機操縦士ボフダン・ハルカビーは、ロシア軍は「無人機『マビク』がわれわれの砲兵隊の射撃位置を特定できるようにするため、使い捨ての歩兵を送り込むことが多い」と語った。ロシア軍の司令官は、ウクライナ軍の砲兵を追い出すための安価な道具として歩兵を扱うようになっている。つまり、接触を強要し、陣地を露出させ、追撃のための射撃を引きつけるためだ。ハルカビーは「特に樹木が茂っている場所に砲兵がいる場合は、砲兵と連携する方が効率的だ」と述べた。



