中国空軍は最近でこそ、「野蛮な行為」(元空自幹部)が減ってきたとされるが、国際ルール無視の行動も数多く指摘されてきた。2001年4月、中国・海南島付近の南シナ海上空で米軍電子偵察機と中国軍戦闘機が空中衝突した。米国側は、中国側の乱暴な挑発行為が原因だったと主張している。今年10月には中国空軍戦闘機が、南シナ海の国際空域で監視活動を行っていたオーストラリア空軍哨戒機に接近し、赤外線誘導ミサイルの対抗装置で、強い熱と光を放つフレアを発射した。自衛隊関係者らは、現時点でははっきりした背景は不明で、今後の中国軍の動向を見極める必要があるとしている。
一方、注目されるのがトランプ米政権の動きだ。トランプ政権は第2次政権で初めてになる国家安全保障戦略(NSS)を発表した。北中南米という西半球を重視し、モンロー主義への回帰を唱えている。そんななか、アジアへの言及は全33ページのうち、6ページに及ぶ。台湾問題で一方的な現状変更を拒否し、九州から沖縄、台湾を経て南シナ海を囲むように伸びる第1列島線のどこでも侵略を防げる軍事態勢を築くとしている。専門家の一人は「この記述だけみれば、(文明の消滅にまで言及した)欧州よりもマシと言えるかもしれない」と語るが、物事はそんなに単純ではなさそうだ。
NSSは従来の伝統外交や移民、気候変動などを否定する記述が目立つ。米政府元当局者は「米国ではなく、トランプの安全保障戦略。MAGA(米国を再び偉大に)派のための文章といっていい」と語る。MAGA派の信条は「アメリカファースト」であり、海外での米軍事力の行使や支援を嫌う傾向がある。NSSは日本や豪州などの地域同盟国に防衛費の負担増を求めている。前出の元当局者は「問題の本質はそこではない」とも語る。「台湾有事の際、米軍は支援に回るだけで、日本や豪州に戦わせろという意見は、トランプ政権内で少なくない声になっている」という。
事実、NSSは「長期的には、米国の経済的・技術的な優位性を維持することが、大規模な軍事衝突を抑止する最も確実な方法である」とするが、抑止が破れた場合にどうするのかという言及はない。また、NSSは米中の経済競争にも多くを割いている。経済的に大きな損失を被る軍事衝突を避けたい思惑も垣間見える。
複数の関係筋によれば、トランプ氏は11月24日に行った米中、日中の各電話協議でも、日中が激しく対立する状況を早期に鎮静化させたい考えを示したようだ。トランプ氏は来年4月の訪中を成功させて米中貿易戦争に終止符を打ち、秋の中間選挙で勝利したい考えなのだろう。トランプ氏が日中関係や台湾問題にどのような姿勢で臨むのか、レーダー照射事件の対応が注目される。


