「ありえない」と言われながら始まったアートフェス
しかし、その歩みは順風満帆ではなかった。2022年5月、番組を立体化させた初のイベント「MEET YOUR ART FESTIVAL」(以下、MYAF)を開催した際に、アート業界の常識と正面からぶつかることになる。MEET YOUR ART共同代表の古後友梨はこう振り返る。
「アートエキシビションとアートフェア、つまり展覧会と売買を同時開催するって、今までなかったんです。しかも私たちはアーティスト主体型のフェアをやろうとした。ギャラリーがブースで複数作家を扱う従来のスタイルでなく、アーティスト個々人の世界観を見せたかった。音楽業界でいえば、前面に立つのはレーベルでなくミュージシャンなので」

アートの関係者からは、「繊細な関係性がある世界だから、本当に気をつけなさい」「こんな形のアートフェアはありえない」など懸念の声が相次いだ。
「でも結局、蓋を開けたらフェスティバルが盛り上がって、業界の人たちがすごく味方になってくれた気がしました」(古後)
加藤は別の視点を付け加える。「僕たちは美術のアカデミックな教育を受けてきた人間ではない。でも、アートが面白いし素敵なものだと思っている。価値のあるものに僕たちならではのやり方で光を当てていきたい。そのピュアな気持ちが伝わったのかもしれない」。
現在、MYAFはフェスティバル協賛額がエイベックス・グループ内トップクラスに成長。社内でも象徴的な事業開発事例として注目されている。並行してMEET YOUR ARTは複合的な事業体へと進化してきた。メディア、フェスティバル、西麻布のギャラリー「WALL_alternative」、ルミネ新宿との協業スペース、KPGグループとの協業でできた沖縄の拠点。年間50社以上の企業とアライアンスを組んでいる。
「僕たちの圧倒的な強みは、MEET YOUR ARTというIPを自分たちでつくっていること。メディアだけできる会社、イベント運営だけできる会社はある。でも、この規模感でIPをうごかせているプレイヤーは正直言っていないと思います」(加藤)
メディアとフェスティバルを通じて培ったネットワークやノウハウを基盤に、企業や地域との共創を強力に推進する。「自分たちならではのエコシステムができてきた」と加藤。すべてを詰め込んだフェスティバルは、単体で黒字であり、収益源でもあるが、それだけでは持続可能性が低い。多面的にマネタイズしながら、軸にあるのは、優れたアーティストと社会の接点を増やすことだ。

