サイエンス

2025.12.09 17:30

カラスは人間の顔を認識できる──そして何年も根に持つ

Shutterstock.com

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カラスから、やけにじっと見つめられているように感じた経験はないだろうか。もしあるなら、それは思い過ごしではないかもしれない。カラスは、地球上において屈指の賢い動物だ。類人猿、そして人間の子どもにさえ匹敵する認知能力を持っている。

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カラスは道具を使い、複数の手順からなるパズルを解き、物体を水に沈めると水位が上がる物理学的現象を理解できる。それどころか、葬儀らしきことをしているところを目撃された例まである。だが、ひときわ驚きを誘うカラスのスキルの1つは、人間それぞれの顔を認識し、その人間が自分をどう扱ったかを記憶する能力だ。しかも、何年もそれを覚えている。

カラスが人間の顔を認識することを証明した画期的研究

カラスの顔認識に関する最も有名な研究は、ワシントン大学のジョン・マーズラフが中心となったもので、2010年に『Animal Behavior』誌で発表された。

マーズラフの研究チームの狙いは、アメリカガラス(学名:Corvus brachyrhynchos)が、人間の個別の顔を識別できるか否かを突き止めることにあった。さらに重要な点として、その個人を長期間にわたって記憶できるかどうかも調べたいとも考えていた。

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実験設定は単純だが、巧みだった。

・研究者らが、際立った特徴を持つマスクをかぶる

・「危険」とされたマスクをかぶっている時に、野生のカラスを捕獲して標識バンドをつける

・「普通」とされた別のマスクをかぶっている時には、カラスとはやりとりせず、通り過ぎる

研究チームは数年分のデータから、個々の顔に対するカラスの反応が長期間にわたって明らかに変わらないことを突き止めた。カラスが攻撃的に鳴き声を上げ、集団で急降下攻撃を仕掛けるのは、「危険」なマスクに対してだけだったのだ。それは、2.7年後に誰かがそのマスクをかぶっている場合でさえそうだった。

だが、さらに驚くことがある。2011年に『Proceedings of the Royal Society B(英国王立協会紀要)』で発表された追跡研究では、捕獲現場を目撃していなかったほかのカラスにも、この行動が広まっていることが観察されたのだ。これは、カラスの社会学習能力を示唆している。つまり、どの人間に対して恨みを持ちつづけるべきなのか、積極的に教えあっているということだ。

とはいえ、驚くべきは、カラスが個々の人間の顔を記憶できることだけではなく、むしろ、それをこなすためにカラスの脳がどう配線されているかという点だ。鳥の脳は、哺乳類の脳よりもかなり小さいものの、ニューロン(神経細胞)がぎっしりつまっている。とりわけ、カラス科の鳥(カラス、ワタリガラス、カケス、カササギ)は、前脳のニューロン数が極めて多い。

『Proceedings of the National Academy of Sciences(米国科学アカデミー紀要)』で発表された2016年の研究では、神経解剖学分野の研究チームにより、カラスが霊長類の脳に似た「巣外套尾外側部」を持つことが証明された。

より詳しく言うと、この脳領域は、哺乳類の前頭前野と同様に機能する。前頭前野は、私たちが意志決定、計画、社会性記憶に用いている領域だ。とりわけ驚くのは、カラス科の鳥のニューロン密度が、同じサイズのどんな脊椎動物にも劣らないことだ。

顔認識タスクをしている際のカラスの脳活動を記録したところ、視覚処理領域と、感情や脅威の評価にかかわる脳領域が同時に活性化していた。PETスキャン(陽電子放射断層撮影)を用いたマーズラフの研究では、危険なマスクを目にした際に、扁桃体に相当する領域が強く活性化していたことがわかった。

こうした結果から、カラスにとって人間の顔の認識は、視覚記憶タスクであると同時に、感情にかかわるタスクでもあることがうかがえる。

次ページ > 進化がカラスの顔認識に味方したのはなぜ?

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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