エコシステム

2025.12.10 08:15

スタンフォード大学における日米イノベーション連携、30年の軌跡と現在地

スタンフォード大学米国アジア技術経営研究センターのリチャード・ダッシャー教授(右)と、筆者 Courtesy of the author

インクルーシブな社会の構築と外国人材の活用

吉川:今後の日本が直面する大きな変化の一つに人口問題があります。人口減少を補い、新たな成長の原動力とするためには外国人材の受け入れが不可欠ですが、日本はどう対応すべきでしょうか。

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ダッシャー:シリコンバレーでは技術人材の約7割が外国生まれです。英語が完璧でなくても問題ではなく、チームで成果を出すことが最優先されます。日本でも、従来のような短期滞在者ではなく、長期的に日本でキャリアを築き社会に貢献する外国人が求められるようになるでしょう。そのための社会的環境整備が不可欠です。

大切なのは「異質な人」としてではなく「友人」として接する感覚です。学生時代から国際的な友人をもてば、「外国人だから」ではなく「あの人は友人のAmitだ」と自然に思える。こうした体験が社会全体の包摂力を高めます。

米国には新しい住民を地域が歓迎する「Welcome Wagon(新しく引っ越してきた住民向けに、地域商店のクーポンや製品サンプルをギフトとして提供するサービス)」という仕組みがありました。一方、日本では新しく引っ越してきた人が近所の人と良い関係を築いていくために、小さいギフトを配るのが習慣です。どちらが良い悪いではなく、日本も「受け入れる側が積極的に歓迎する姿勢」を強めるとよいでしょう。

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吉川:私が以前勤務していたシリコンバレーのテック企業では、まさに会社版のWelcome Wagonが実施されていて、新しい社員が会社に馴染むためのさまざまな取り組みが行われていましたが、その基盤には、「新しい社員」=「新しい価値を追加してくれるメンバー」というポジティブな認識がありました。特に社員の入れ替わりが激しいアメリカの企業では、いかに新しい社員が素早く馴染んで力を発揮してくれるかどうかが生産性に大きな影響を与えるため、経営陣も重視していました。

日米の大学の違いと今後の展望

吉川:ダッシャー教授は東北大学で外国人として初めて大学ガバナンスに関わるなど日本の大学にも深く関与されてきましたが、日米の大学を比較するとどのような違いを感じますか。

ダッシャー:日本の大学は長らく文部科学省に依存して安定を重んじてきました。そのため柔軟性に欠けていましたが、近年は変わりつつあります。私が2004年に東北大学の理事会に参加した当時、外部登用は極めて稀でしたが、現在は副学長や理事に外国籍人材が入るなど、確実に進化しています。ただし内部昇進の慣習が依然として強く、外部の新しい視点が今なお不足しているのは課題です。

一方、米国の大学は研究費の調達モデルを大きく改革する必要があります。これまでは政府資金に大きく依存してきましたが、今後は企業など多様な調達先を開拓すべきです。スタンフォード前学長のジョン・ヘネシー氏はこの必要性を早くから認識し、政府以外の資金源からの研究費の拡充に尽力しました。米国の大学は今後、国外にも資金パートナーを広げることが求められるでしょう。その意味で、日本にとっても米国の大学と連携する大きなチャンスです。

「世界は不確実で脅威も多いですが、楽しみながら取り組めば必ず力を発揮できます」(ダッシャー教授)  Courtesy of the author
「世界は不確実で脅威も多いですが、楽しみながら取り組めば必ず力を発揮できます」(ダッシャー教授) Courtesy of the author

若者へのメッセージ:「楽しむこと」

吉川:最後に、「Forbes JAPAN」の読者、特に若い世代に向けてメッセージをお願いします。

ダッシャー:やはり何事においても「楽しむこと」が大切です。世界は不確実で脅威も多いですが、楽しみながら取り組めば必ず力を発揮できます。シリコンバレーで常に問われるのは「そのアイデアに情熱をもてるか」です。大企業で働く人も、学生も、楽しみながら取り組むことで最高の成果を出せます。困難な状況にあっても、目の前の仕事の中で自分が楽しめることを見出していくことが、未来を切り開く原動力になります。

日本はいま、明治維新以来とも言える大きな変革期を迎えています。世界をリードする国の一つとして、変化を楽しみながら前進していけるか。そこに私は大きな期待を寄せています。

文 = 吉川絵美

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