ディーンは、人事部門が「自らの業務を過度にシステム化した」ため、人工知能(AI)に代替されやすくなったと指摘した。AIが優れているからではなく、人事部門が自らの業務を機械が既に得意とする作業、つまり選別や振り分け、処理、採点に狭めたからだ。「AIはあなたが良い意思決定をできるよう支援すべきだ」とディーンは語った。「決してAIに意思決定を任せてはいけない」
仕事が排除した能力
真に重要なものを取り戻すため、ディーンはブータンの宗教の集団や米南西部の先住民族ホピ族の指導者、ペルーのインカの伝統など、基本を忘れていない共同体を研究した。「彼らは共同体で生きる術を見出した」とディーンは語った。「AIも比較ループもない。そして彼らは我々より健康的だ」
そうした対話や、ディーンのデジタルウェルビーイングと神経科学の研究を通じて、3つの人間の能力が浮かび上がった。
・知恵:生きた経験によって形成される判断力
・驚き:好奇心と、他人が見落とすものを見抜く能力
・機知:職場が静かに奪う陽気さ
筆者の考えではこれらは飾りではない。レジリエンスと創造性の原料だ。だが現代のシステムはスピードや過負荷、画一性によってそれらを取り除いてしまう。
仕事からの「見返り」の計測
パタゴニアが週4日勤務に移行した時、ディーンは生産性だけを追わなかった。ほとんどの企業が避ける質問を投げかけた。
・子どもと過ごす時間が増えたか
・好きなことに再び取り組めているか
・以前よりも健康的な食事を取っているか
・人間関係は改善しているか
導入から6カ月後、変化は明白だった。安定した慣習や改善された健康習慣、密な家族関係などがみられた。そしてこれらの成果は高い業績とリーダーシップへの信頼につながった。
これがディーンが現在、企業文化を評価する際に用いる核心的な問いとなった。
仕事に注ぐ労力に対して、会社は私の人生に同等かそれ以上の価値を還元しているだろうか。
この問いには生理学的な証拠がある。ギャラップの長期的なウェルビーイング研究では、労働者がウェルビーイングの5つの要素の大半で苦戦すると、身体がその代償を吸収することが示されている。総合的なウェルビーイングが低い従業員は、少なくとも4つの要素で高いウェルビーイングを持つ従業員と比べ、3年間で新たな慢性疾患を発症する率がほぼ2倍となった。ウェルビーイングの基準を満たす労働者はわずか9%だ。
再生可能な仕事のための6つの必須事項
1. 相互性を中心に据えた仕事の設計
筆者の研究では、健全な組織は相互性を感情論ではなく設計として扱う。人々が与えるものだけでなく、仕事が返すもの、つまり自信や能力、安定性を追跡する。その見返りが可視化されると、仕事量と期待値は再調整される。ディーンはこれについて「真の試金石は、会社が私の人生に等しいかそれ以上の価値を返しているかどうかだ」と簡潔にとらえている。


