この下から上への手法は筆者に大きな疑問を投げかけた。単純な順序の逆転が採用においてこれほどの洞察をもたらすなら、そのルール破りを人事の他の分野に持ち込んだらどうなるのだろうか。あらゆるシステムには既定の流れがある。そのいくつかの流れをひっくり返したらどうなるだろうか。
業績管理はその人の仕事ぶりを実際に示す過去1カ月から始めることもできる。後継者育成は、プレッシャーが増大した時、人は誰に頼るのかという人間的な兆候から始めることもできる。そのパターンはどんな潜在的な評価よりもリーダーとしてのエネルギーを物語る。
オンボーディングは、新入社員が最高の状態で働ける環境とはどんなものか、という組織がほとんど尋ねない質問から始めることもできる。人を型にはめ込もうとせずに、その人に合わせてチームが調整する。リーダー育成は、キャリアの方向性を変える経験、つまり飛躍的な進歩のように機能する挑戦を中心に据えることもできる。よく設計された1つの経験は数多くの研修プログラムよりもリーダーを変容させる。
こうした考え方は点在しているが、システムを再構築するほど浸透することは稀だ。変化はどこから始めるかによって決まる。
皮肉なことに、ディーンがこの原則の重要性を学んだのはパタゴニアではなく、楽観主義が消え去った後のSearsとKmartだった。
プレッシャー下にある人事部門
ディーンがSearsとKmartの数千人の人事担当者を集めた時、希望を見出せるような演出をしようとはしなかった。代わりに氷山に衝突して沈没した豪華客船タイタニック号の写真を掲げた。衝突はすでに起きていた。彼らは衝突した船に乗っていたのだ。この率直さがチームの働き方を変えた。「我々は船上の楽団になる」とディーンは人事担当者に宣言した。「可能な限り最高の楽団になるのだ」
その後起こった革新は計画されたものではなかった。必要に迫られて生まれたものだった。人事担当者らは従業員の勤怠管理データからエネルギーパターンを分析し、早期離職を予測するモデルを構築した。「ピープルアナリティクス」という言葉が生まれるずっと前から実験を重ねた。当時の人事チームから25人が後に人事最高責任者となった。会社は存続しなかったが、そこにいた人々は生き残り、そしてより強くなって社を去っていった。
筆者のコンサルティング業務でも同じ分岐点が見られる。組織が安定していると感じると、リーダーはプロセスに頼る。プレッシャーが高まると、リーダーは統制を強化するか、最終的に自社のシステムが人々に与える影響に注目するかのどちらかだ。後者のグループは持続する文化を築く。
人事部門が方向性を見誤った理由
ディーンと筆者がキャリアを重ねてきた時代は、システムが進歩と見なされていた。業績と将来の可能性に基づいて分類する9ボックス評価、評価の調整を行うキャリブレーション会議、年次評価、エンゲージメントを高める取り組みなどだ。やがて機械的な仕組みが組織のアイデンティティとなった。人事は効率性を追い求め、判断力を失っていった。


