だというのに、日本政府はなんでまた東京でDOGEのような試みをやろうとしているのか。高市率いる自民党政権が、トランプ2.0の不興を買ったり、トランプ関税に逆らったりすることをどれほど恐れているのかは、痛々しいほど明らかだ。高市は、DOGEの真似ごとをすればトランプが気をよくし、通商ディール(取引)で獲得したはずの5500億ドル(約85兆円)の「契約金」がいまだに支払われていないのはなぜなのか、問い詰めようという気にもなりにくいだろうと考えたのかもしれない。マスクが飛んできて、チェーンソーを振り回すパフォーマンスをしてくれることも期待しているのだろうか。
DOGEのような組織を真似るなんてあり得ないという批判は脇に置いても、高市はこの取り組みによって貴重な時間を無駄にしかねない。
ここで少し、発足からまだ1カ月半ほどしかたっていない高市政権がやろうとしていることを善意に解釈してみよう。おそらく高市とそのチームは、米国でDOGEがつくられたそもそもの理由に着目しているのだろう。たしかに、歳出の削減や政府の効率化を進める方策を調査し、提言するというハイレベルの取り組みは、歓迎されるべきものに思える。もっとも、その責任者に自国で最も裕福な人物を据え、あまりに多くのナタ、あるいはチェーンソーを持たせるべきではないだろう。
しかし、たとえ日本政府がマスク型の大失敗を避けられたとしても、これは正しいやり方ではない。日本の政治エスタブリッシュメントは有識者会議の類いが大好きだ。日本版DOGEもその手のものになるだろう(編集注:内閣官房に設置された「租税特別措置・補助金見直し担当室」自体は関係省庁からの約30人が併任で業務を担う実務組織)。こうした会議は事実調査、合意形成、報告書作成のスピードが遅いことで悪名高い。高市が1年後に交代させられるのを防げないほどに遅い。
日本の政権が成果を出すために与えられる時間は、おおむね1年程度しかない。だが官僚的で変化を嫌う日本で、その期間に大きなことを成し遂げるのは不可能に近い。これこそ、2006年以降の日本の10政権のうち、8政権が1年前後しか持たず、回転ドアのようにころころと次の政権に入れ替わってきた理由である。


