生活者向け商品における「ヒットの法則」は、今や大きく変わりつつある。採用難の時代を迎えるこれからの勝ち筋を考える。マクアケ創業者による好評連載第58回。
量生産、大量流通、大量広告──生活者向けメーカーの成長は、かつてこの「3つの大」を揃えられるかどうかで決まった。小売りの棚を面で押さえ、在庫を切らさず、マス広告で一気に需要を喚起する。勝利の方程式は明快で、卸や小売りとの取引営業の強化、生産ラインの拡充、テレビCMをはじめとした大型広告などに経営資源を投下すればよかった。だが2010年以降、この勝利のルールは劇的に変わった。スマホとSNSの普及により消費者の趣味嗜好が細分化し、生活者という「大きな塊」が消えたのだ。博報堂メディア環境研究所の資料によれば、メディア総接触時間の内訳も激変。2006年にはテレビ、ラジオ、新聞で全体の74.0%を占めていたが、25年には35.7%まで減少。代わりにスマホ(携帯)、パソコンやタブレット端末が62.2%を占め、情報の流れはもはや別物となった(「メディア定点調査2025」)。
勝ち筋が変わった今、「たくさんつくって、強い流通とマス広告で売る」だけではビジネスとして抜きん出ることは難しくなっている。そんななかでも売り上げを伸ばしてきたのは、ユニクロ(ファーストリテイリング)、無印良品(良品計画)、ニトリといった製造小売り企業ではないだろうか。その成功の要因は海外展開の巧拙だけではなく、商品企画から製造、販売までを一体化したSPA型の運用にある。生活者との接点を自社で内包し、データと現場の洞察によって次のニーズを先回りするプロセスを構築した点も非常に大きいと見ている。
一方で、「3つの大」で勝者となった企業の一部は、生活者向けの商品からBtoB部品や素材を提供する事業などへかじを切りつつある。その選択により業績自体は好調かもしれないが、ワクワクする商品を生み続けてきた企業がその事業を縮小ないし撤退していくのは、個人的には正直言って少し寂しい。これらの企業に共通しているのは、顧客の声や購買データを直接得られない販路への依存が続いた結果、生活者である顧客との接点が希薄化し、質の高いインサイトが社内に滞留しない構造になってしまった点が挙げられる。地方の中堅・小規模企業にとってはなおのこと、データ分析、インサイト探索、テストマーケ、販路開拓、デジタル施策などのすべてを内製で高水準に回すのは至難の業だ。



