過信によって組織が被る損害
過信が組織文化の中に広まると、意思決定に歪みが生じる。仮説を事前検証せずにプロジェクトの進行を急いだり、フィードバックループの段階を省略したり、意見の相違を足かせとみなしたりするようになる。その結果として組織は、前進に向かう動きを誤解し始める。
最大の打撃を被るのはイノベーションだ。試行錯誤には、心理的な安全性が必要だ。つまり、失敗しても罰せられることはないと、わかっていなくてはならない。しかし、過信に陥ったリーダーはしばしば、こうした心理的な安全性を、意図せず揺るがしている。リーダーの確信に満ちた姿勢は、「深く探求する必要はない」という態度を示している。リーダーがすでに答えを知っているかのように振舞っていれば、誰も自ら答えを探そうとはしなくなる。
Mckinsey & Company(マッキンゼー・アンド・カンパニー)が2021年に実施した、適応的行動に関する研究によると、企業が成長を遂げるのは、実行力とともに、好奇心を高く評価した場合だ。過信に陥ったリーダーは、その逆の事態を招く。従業員は、不確実性を見せまいとして隠し、自分の領域を守ろうとし、古い仕組みにしがみつこうとする。こうした状況が長引けば、意思決定の質は低下していく。
知的な謙虚さと学ぶ姿勢、「レッドチーム演習」の実践
この流れを逆転させるためにリーダーができるのは、自らが見本となって、知的な謙虚さを示すことだ。公の場で自身の考えを修正したり、誤りを認めたりすると、信頼性は低下するどころか高くなる。自信と脆さは共存可能だと体現するからだ。チームメンバーは、リーダーの普段の行動を模倣する。リーダーが学ぶ姿勢をはっきり見せれば、部下の方も、そうしてよいのだと感じることができる。
過信を防ぐ実践的な手段として、プロセスを設計することも挙げられる。計画にコミットする前に、複数の仮説を立てることを義務づけよう。また、ITセキュリティ対策で行われる「レッドチーム演習」を実践しよう。つまり、1つのグループが立てた仮説に対して、別のグループが異議を申し立て、検証する議論の場だ。
こうした小さなシステム的介入を行うことで、自信を、絶対的なものではなく、動的なものとして維持することができる。


