過信に陥る心理の仕組み
過信に陥ることの裏側には、3つの心理的な力が働いている。それは、「成功」「称賛」「孤立」だ。
成功すると、「自分の直感は絶対に正しい」とリーダーに思い込ませるフィードバックループが生まれる。称賛されると、異なる意見を排除し、「自分は絶対に正しい」と思い込む錯覚が増幅する。そして、孤立することで、自分の考えに反する情報が入手できなくなり、過信を招くサイクルが完成する。
心理学者ダニエル・カーネマンは、こうした在り方を「妥当性の錯覚(illusion of validity:自分の判断が、実際よりも正確であると思い込んでしまう認知バイアス)」と呼んだ。つまり、判断に自信があるからといって、その判断が正しいとは限らず、むしろ正しいことは稀なのに、自信は正しさを反映していると確信してしまうわけだ。
脳が強く求めるのは、真実ではなく一貫性だ。わかりやすいストーリーをつくり出したリーダーは、そのストーリーの成立を困難にする何もかもを、無意識のうちに退けてしまう。
過信によって、試行錯誤も減る。なぜなら、「学ぶこと」よりも「評判を守ること」へと意識が移ってしまうからだ。「正しい判断を見いだす」よりも、「正しいとみなされる」ことを優先するようになる。
このような守りの姿勢に入ってしまうと、チームの創造性が抑制され、不安が生まれる。部下は、リーダーの思い込みと矛盾しそうなアイデアの提案を止めてしまう。たとえ会社を救う可能性を秘めたアイデアであっても、提案を躊躇するようになる。
「疑う心」を意図的に育む
このような状況にならないようリーダーが心がけるべきは、自分自身に対して問い直す「疑う心」を意図的に育むことだ。「自分の考えが間違っていると証明できるエビデンスは何か」あるいは「自分と異なった見方をする人間はいるだろうか」と問いかけることで、広い視野を維持できる。
早い段階で批判的な意見を受け入れれば、後々の失態を防げる。目標は、自信を手放すことではなく、「条件付きの自信」を持つことだ。それは、強いながらも、必要に応じて後戻りできるような自信だ。


