資産運用大手バンガードは、膨大な債券の組み合わせから最適解を導く難問に直面
量子コンピューターの活用が注目されている債券取引の分野で、大きな存在感を示しているのが資産運用大手の米バンガードだ。同社が440億ドル(約6.9兆円)規模の「バンガード非課税債券ETF(VTEB)」を常に最新の状態に保つには、厄介な問題が立ちはだかる。投資対象となり得る債券は少なくとも6万3000本に及ぶ。この中から約9800本を選び、高い利回りとリスクの最小化を両立させなければならない。
だが、このプロセスには微妙な落とし穴がある。たとえば、イリノイ州とシカゴ市の双方に資金を貸し付ければ、いずれも年金を要求する労働組合の圧力で財政が揺らぎかねず、リスクが重複する恐れがある。また、平均満期を一定範囲に収めるといった数多くの制約が加わることで、この債券の組み合わせ選択は数学的に極めて難しくなる。
現状では、こうした条件下で最適解を完全に導き出す方法は存在しない。バンガードは通常のコンピューターを使い、可能な限り良好な解を求めている。プロセス自体は数分で終わるものの、その裏では数百兆回もの計算が走っている。
この難問に対し、解の精度を高められる可能性を秘めているのが量子コンピューターだ。最近の実験では、IBMとバンガードが協力し、109本の証券から最適な組み合わせを選ぶケースを検証した。すべての組み合わせを検証するのは非現実的で、その場合の計算は通常のコンピューターでは「宇宙の年齢を超えるほどの実行時間」が必要になる。
4200回のゲート操作を経た実験で、最適解への手がかりを掴む
一方、量子コンピューターを用いた実験では、すべての組み合わせを順番に試す必要がなかった。実質的には、あらゆる可能性を同時に考慮し、マイクロ波パルスの旋律に乗って最適解へと近づいていった。そして4200回のゲート操作を経て、答えの手がかりを掴んだ。
2029年までに、1億回のゲート操作ができる耐故障型マシンを完成させる計画
ただし、IBMがバンガードのような顧客にとって本当に実用的ツールを提供するためには、より大きな成果を示す必要がある。IBMの構想では、2029年にポキプシーに1億回のゲート操作を実行できる部屋サイズの耐故障型モジュール式量子コンピューターを完成させる計画だ。またそれ以前にも、小型の量子マシンが古典コンピューターと連携して動作し、ポートフォリオ最適化のような実務課題で古典計算を上回るようになるとガンベッタは見ている。IBMはすでに、量子サービス向けに10億ドル(約1560億円)規模の投資コミットメントを取り付けている。
営業畑の体制を改め、かつてガンベッタの職務を担当したエンジニアがCEOに
IBMと聞くと、銀行や大手航空会社に強固なシステムを提供する古風な企業のイメージが先に立ち、最先端のテクノロジーで俊敏なスタートアップに勝てないと思いがちだ。だが、ここで注目すべき点がある。同社は現在、1世紀近く営業畑の経営者が主導してきた体制を改め、電気工学の博士号を持つエンジニア、アルビンド・クリシュナがCEOを務めている。彼は、かつてガンベッタの職務を担当していた人物だ。
一方、ホーボーケンを拠点とするQuantum Computingが、IBMとそのトランズモン方式を追い抜く可能性も否定できない。ただし、同社が再び清涼飲料の流通ビジネスに逆戻りする可能性もある。


