北米

2025.11.30 16:30

5000億円の資金調達が頓挫、米ナップスターから消えた「謎の投資家」と「巨額資金」

ファイル共有サービス、初代「Napster(ナップスター)」にアクセスしている様子。2000年7月ごろの画像(Shutterstock)

ファイル共有サービス、初代「Napster(ナップスター)」にアクセスしている様子。2000年7月ごろの画像(Shutterstock)

「Napster(ナップスター)」は、前世紀から2000年代初頭にかけて、P2P技術を用いた音楽共有で物議を醸したファイル共有プラットフォームだ。初代Napsterは2003年に倒産した。同年米ソフトハウスRoxioが買収し2代目ナップスターを開始した。その後Best Buyが買収し、2011年にRhapsody(ラプソディ)に売却。2020年VR音楽アプリ「MelodyVR」による買収後、2022年にはWeb3系のHivemindとAlgorandに買収された。2025年3月、Infinite Reality(インフィニット・リアリティ)に買収され、Infinite Realityは5月に社名をナップスターに変更した。

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ナップスターは、数年前(旧Infinite Reality時代)にメタバース分野に進出し、直近では人工知能(AI)事業にも乗り出していた。同社は2025年1月、巨額の資金調達を発表したが、このラウンドは当初から不透明さが指摘されており、ついに頓挫したことが明らかになった。

巨額の資金調達計画が頓挫し、ナップスターは不正行為の被害者だと主張

ナップスターは2025年11月20日、株主向けオンライン説明会を開き、社員や元社員、個人投資家を含む約1500人の株主のうち約700人が参加した。この場でジョン・アクントCEOは、1月に「評価額120億ドル(約1.9兆円。1ドル=156円換算)で33億6000万ドル(約5242億円)を出資する」と同社が主張していた正体不明の大口投資家が、実際には出資を履行しない見通しだと参加者に伝えた。ナップスターは、その直後に投資家に送ったメールで、取り消された株式の影響で一部投資家の持ち株比率が上がると説明し、自社を「不正行為の被害者」と位置づけ、「進行中の捜査で法執行機関に協力している」と記している。

公開買付けも中止となり、投資家への説明が二転三転して信頼を失う

株主が持ち株を売却できるはずだったテンダーオファー(公開買付け)も中止された。「出資を表明していた投資家が公開買付けの資金提供元だったため、この取引も実施されないと考えている」と同社はメールで説明した。

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もっとも、持ち株比率が増えることを喜ぶ投資家はほとんどいないだろう。ナップスターはこの1年近く、新たな資金注入や、株主が株を売却できるといった話を次々と変えながら、社員と投資家を引き留めようとしてきた。同社がテンダーオファーの話を持ち出したのは、2022年以降でこれが4回目であり、今回もまた取引は頓挫した。

ナップスターの広報担当ジリアン・シェルドンは、今回の調達に関する一部の説明は「当時の認識では正しいと判断したものだった」と述べたうえで、「その後、提供された情報が正確ではなかったことを示唆する不正行為の兆候を把握した」と説明した。

同社はこの記事についてこれ以上のコメントを控えた。また、これとは別に米証券取引委員会(SEC)と司法省(DOJ)はそれぞれ、同社と資金の行方を調べている。ただし、DOJの調査はナップスター自体を対象としていない(SECの調査はもともと、2022年に頓挫した逆さ合併の過程で示された同社の18億5000万ドル[約2886億円]の評価額に関するものだったが、現在も継続しており、調査範囲が広がっている可能性がある)。

SECの広報担当者は、「調査が存在するか否かについてはコメントしない」と回答した。DOJは、現時点でコメント要請に返信していない。

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翻訳=上田裕資

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