北米

2025.11.30 16:30

5000億円の資金調達が頓挫、米ナップスターから消えた「謎の投資家」と「巨額資金」

ファイル共有サービス、初代「Napster(ナップスター)」にアクセスしている様子。2000年7月ごろの画像(Shutterstock)

評価額の上昇を宣伝する裏で、訴訟・未払い・レイオフが相次ぐ

複数の株主は、アクントが5月までに話を一段と大きくし、「謎の投資家」のおかげで「間もなく株式を1株20ドルで売却できるようになる」と告げていたとフォーブスに証言した。もしそれが事実なら、会社の評価額は180億ドル(約2.8兆円)となり、2024年の売上高の240倍──1月時点の主張より50%高い水準になる計算だった。

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当時ナップスターは、表向きは事業を順調に進めているかのように装っていた。メタバースからAIへの方向転換を進め、株式を“通貨代わり”に使いながら、少なくとも3社を新たに買収していた。

大口投資家は現れず、買収した企業の元オーナーなどから訴訟を起こされる

しかし、週を追っても、“大口投資家”が現れる兆しはまったくなかった。株主は株を売却できず(ただし貸し手の一部は強く抗議して、いくらか返金を受けた)。未払いを訴える新たな訴訟も続き、6月には、ナップスターが1月に買収したVR企業Obsess(オブセス)の元オーナーが、「ナップスターからの2200万ドル(約34億円)がいまだに支払われていない」と提訴した。

これに対しナップスターは反訴し、「粉飾していたのはオブセス側であり、提示された虚偽の財務情報をもとに買収した」と主張した。オブセスはそれを否定しており、訴訟は現在も進行中だ。また別の訴訟では、ソニーが8月にナップスターを提訴し、未払いのロイヤリティなどを理由に920万ドル(約14億4000万円)の損害賠償を求めた(ナップスターは応答せず、10月には裁判所書記官が“応答なし”を記録する証明書を提出した)。

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7月には、大規模なレイオフも起きた。元従業員によれば、全体の3分の1にあたる約100人が解雇され、その多くが開発者だったという。在籍中に発表された一部の製品アナウンスについても「あれはAIが生成したような、中身の伴わない説明だった」と疑問を呈した。

当時、広報担当のジリアン・シェルドンはフォーブスに対し、レイオフの理由を「過去18カ月の買収により人員が重複したため」と説明し、「現在も世界各地で数百人の正社員を雇用している」と述べていた。9月には、リンクトインのプロフィールによれば、最高法務責任者ジェニファー・ペパンと最高財務責任者ブライアン・エフレインが会社を去った。ペパンはコメント要請に応じず、エフレインはナップスターを退社したことを認めたものの、それ以上の説明は避けた。

資金調達の仲介者に過去トラブルがあり、証券詐欺の可能性も

ナップスターはこの間ずっと、事業を継続するための資金集めに奔走していたようだ。同社は仲介業者や投資アドバイザーと手を組んでいたが、その中には過去に当局とトラブルを起こした人物も含まれていた。たとえば、謎の投資家“代理”を務めていたと主張するCova Capitalは、かつて証券業界の自主規制団体FINRAから処分を受けている。私募株式を一般投資家に勧誘する際に、同社が「適切なデューデリジェンスを行わず、商品が一部の投資家にとって適切である、あるいは投資家の利益にかなうとの合理的根拠を欠いていた」と指摘されたためだ。

FINRAは、エドワード・ギブスタインCEO率いるCova Capitalが、発行体が株式を売る権利を本当に保有しているか確認せず、また株価がどれほど上乗せされているかも把握していなかったと主張した。Covaは2025年3月、指摘を認めることなく罰金を支払って和解した。同社社員ヴィンセント・シャープも、別の会社に在籍していた頃に、情報の不実表示や不適切な投資勧誘をめぐる顧客紛争3件について罰金を支払っていた(本人は不正行為を否定している)。

2024年、無関係の1億2000万ドル(約187億円)規模の詐欺事件に関与したとしてSECに起訴されたラレン・ピショッティも、2024年には短期の高金利ローンを含む資金調達でナップスターを支援していたとみられる。ピショッティは弁護士を通じてコメントを拒否した。誰がどこまで関与していたのかは不透明なものの、ナップスターは30億ドル(約4680億円)の投資を発表した後に、数千万ドル(数十億円)規模の追加資金を調達したとみられる。

もしナップスターが、資金調達が成立していないと知りながら、投資家や買収先に虚偽の情報を提示して利益を得ていたなら、問題は深刻だ。こうした行為は証券詐欺に該当する可能性がある。「投資家に証券を買わせるために虚偽を伝えていたのであれば、それは詐欺だ」と、今回の案件とは無関係のスタートアップ専門弁護士パトリック・マクロスキーは語る。鍵を握るのは、その資金が実際に貸借対照表に計上されていたか、会社側が本当に資金を管理下に置いていると信じていたか、そして当時ナップスターが何を知り、何を意図していたかだという。

確かなのは、ナップスターをめぐるこの“謎”がいまだ解けていないという一点だけだ。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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