北米

2025.11.30 16:30

5000億円の資金調達が頓挫、米ナップスターから消えた「謎の投資家」と「巨額資金」

ファイル共有サービス、初代「Napster(ナップスター)」にアクセスしている様子。2000年7月ごろの画像(Shutterstock)

CEOは巨額投資を誇示したが、フォーブスの調査で疑念と矛盾が浮上

ナップスターは、自分たちが「被害者だ」と主張しているが、フォーブスはすでに数カ月前から、匿名の投資家と同社の双方に疑念を抱いていた。事の発端は1月にさかのぼる。当時Infinite Realityという社名だったナップスターが、「30億ドル(約4680億円)の資金調達が成立した」とフォーブスに売り込んできたのが始まりだった。同社は2月11日に送付したメールで、フロリダ州ボカラトンを拠点とするこの会社の12%の株式を保有するアクントを、「フォーブスのビリオネアリストにふさわしい有力候補」として推薦した。

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2月にロサンゼルスで開かれたイベントでアクントは聴衆に向かい、「30億ドル(約4680億円)規模の投資を公然と語り、業界でも最大級だといえるのは、実際にその事業を進めているからだ。そうでなければ、そんな話はできるはずがないだろう?」と言い放った。彼はまた、同社が株主にどれだけの富をもたらしたかを誇示し、「われわれには600人以上のミリオネアがいる」と豪語した。

提携の実態誇張や投資家情報の混乱が続き、説明の信憑性が揺らぐ

こうした発言を受けてフォーブスが実態を調べ始めると、表向きの説明とはまったく異なる姿が次々と明らかになった。同社は、債権者が未払いを訴える複数の訴訟や、SECの召喚状に従わせるための連邦訴訟(その後却下)を抱えていただけでなく、マンチェスター・シティFCやグーグルとの提携を実態以上に誇張していたことも判明した(いずれもフォーブスが以前に報じていた)。

同社は、実際には直接投資していない“有力投資家”の名前を並べていた。匿名の30億ドル(約4680億円)の投資については、広報担当者が3月の時点でフォーブスに対し、「Infinite Realityの口座にあり、当社が利用できる」「すでに活用している」と説明していた。

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ナップスターをめぐる入り組んだ歴史は、2019年にアクントが破綻したソーシャルメディア企業Tsuを買い取ったことに端を発している。Tsuはその後、少なくとも十数社のメタバース、VR、ドローン、AI関連の企業と合併や買収を繰り返した。いずれも株式交換による取引で、取引のたびに評価額は上昇した。その後、Infinite Realityと名乗るようになった同社は、2025年3月に2億700万ドル(約323億円)でナップスターを買収し、5月には知名度の高いナップスターの名を社名に採用した。

フォーブスが4月にナップスターの資金調達に疑念を示す最初の記事を掲載したその日、ナップスターはプレスリリースを出し、「過熱するメディアの注目」を理由に、投資家の正体が助言会社ステアリング・セレクトだと公表した。ステアリング・セレクトは、ニューヨーク・メッツの元筆頭オーナーであるフレッド・ウィルポンとソール・カッツの資産を運用するステアリング・エクイティーズとは同じ会社ではない。ただし両社には一部重なる人物がおり、それがステアリング・エクイティーズのパートナーで、ステアリング・セレクトの共同創業者でもあるデイビッド・カッツだ。

だが、ここから話はいっそう複雑になる。ステアリング・セレクトは実際の「投資家」ではなく、ナップスターに他の「投資家たち」を紹介しただけで、資金を出したのはその紹介先だったと、ナップスターのカリーナ・コーガンCMOはフォーブスに語った(のちに同社はプレスリリースを修正し、ステアリング・セレクトが「投資家ではなかった」と発表した)。

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翻訳=上田裕資

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