AI(人工知能)ブームは市場を何度も最高値に押し上げてきた。投資家が殺到し、企業は猛烈なスピードでデータセンターを建設している。銀行家は、一世代に一度レベルの借り入れ急増がもたらす手数料収入に小躍りしている。
だが、現在の大規模なAIインフラ整備は、一般の人々の間ではほとんど顧みられないリスクを伴っている。10月、米カリフォルニア州ラグナビーチで開かれたウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙主催の年次会合「テックライブ」で、米オープンAIのサラ・フライアー最高財務責任者(CFO)は、この拡張を支える債務を米政府が「保証(backstop)」する必要が出てくるかもしれないと語った。仮にそうした措置が取られれば、大企業や投資家が保護される一方、少なくともリスクの一部を米国民が負わされることになる。
AIインフラ建設のための資金調達競争では、数千億ドル規模の債務が市場に新たに生まれつつあり、フライアーはそれを懸念して将来の救済をあらかじめ求めたのだろうか。当のフライアーは1日もたたないうちに発言の修正を図り、「保証」というのは債務を受け入れやすくする政府保証のことではなく、あくまで政府側の果たす「役割」のことだったとビジネスSNSのリンクトインで釈明した。とはいえ、彼女の失言は、多くの金融関係者がすでに知っていることを暴露した。債券市場は、AI分野に資金を供給していく「容量」はあっても、特定の分野にこれほど大規模な資金を振り向けるリスク許容度がないかもしれない、ということだ。ファンドが特定の業種や企業に対してどれだけ投資できるかに制約があるほか、数十社が絡むAI関連取引を抱えることにもリスクがあるため、債券市場のリスク許容度には限界があるのだ。
AI向け借り入れ需要の規模は非常に大きい。米金融大手JPモルガンのアナリストらは、AI関連の投資適格債の発行額だけで2030年までに1.5兆ドル(約235兆円。1ドル=約156円)に達する可能性があると試算している。これは米企業全体の年間社債発行額(2020年以降の平均で1.9兆ドル)に迫る規模であり、AIインフラ関連の借り入れ全体はこれよりもさらに巨額になると見込まれている。米企業は今年だけですでに合計で2000億ドル(約31兆円)を超えるAI関連債を発行しており、この額は社債市場全体のおよそ10%を占める。直近では米アマゾンが11月17日、150億ドル(約2兆3000億円)の起債を発表している。米アルファベットも今月それに先だち、250億ドル(約3兆9000億円)の社債を発行し、最長50年の償還期限を設定した。米メタも10月に起債で300億ドル(約4兆7000億円)を調達したほか、9月には米オラクルが180億ドル(約2兆8000億円)の社債を売り出している。



