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2025.11.26 09:00

AI向けの莫大な借り入れが「次の信用収縮」を招きかねない理由

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米資産運用会社コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツの債券調査担当グローバルヘッド、トッド・チャカーが引き合いに出すのはシェールブームだ。シェール(頁岩)層の石油・ガス開発はおよそ6000億ドル(現在の為替レートで約94兆円)の投資を集め、ひとつのテーマに大量のマネーが流れ込んだことで信用市場が変容した。チャカーは、AIの資金循環サイクルにも同様のパターンが見いだせると説明する一方、今回は規模が異なるとも付言している。彼のチームは、AIインフラへの支出総額は5.7兆ドル(約890兆円)に達する可能性があると見積もっており、かつてないほど巨大なその規模を「違う惑星」レベルと表現している。

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チャカーは、シェールブームの時と同じように、AIブームでも最終的には投資家が勝ち組と負け組を選別することになると予想する。同時に彼が今回のリスクとして挙げるのは、市場に一度に大量の債券発行の波が押し寄せていることだ。潤沢な資本を持つ企業であっても、数千億ドル規模の新規プロジェクトを公募債で賄おうとすれば、投資家側のポートフォリオの限界を試すことになる。その負荷はテクノロジー・メディア・通信分野の社債市場全体でスプレッドを拡大させ、さらに債券発行量が増えるにつれてほかの業界にも波及していく可能性がある。

なぜなら、債券に投資する機関投資家は、ある分野や企業の持ち分比率に制限があることが多いからだ。年金基金や保険会社、ミューチュアルファンド(投資信託)は、ポートフォリオのバランスを保つため保有比率に上限を設けている。ひとつの分野が債券の新規発行で支配的になると、こうした上限によって投資行動が制約されることになる。したがって、債券購入者側の安全を確保するためのルールが原因で、新たな借り手が市場から締め出されることもあり得るのだ。

集中をめぐる問題がまず表れるのは、債券市場の基準となる「指数」だ。

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投資適格債のインデックスの多くは、ひとつの発行体が占めるウエートに上限を設けている。たとえばMSCIの米ドル建て投資適格社債指数は3%、フィデリティの全期限米国投資適格社債指数は3.5%、マーケットアクセスの米国投資適格400指数は4%をそれぞれ上限としている。

ファンド側の運用方針もそれに倣うことが多い。

米ブラックロックの最大規模の社債上場投資信託(ETF)は、ベンチマークとする指数のウエート上限をそのまま採用している。iシェアーズ・iBoxx米ドル建て投資適格社債ETF(純資産330億ドル)もマークイット・iBoxx投資適格指数に従い、各発行体の比率上限を3%としている。iシェアーズ・iBoxxハイイールド社債ETF(同180億ドル)も高利回り版指数に連動し、この指数の比率上限も同じく3%となっている。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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