とはいえ、もっと大きな問題は、最近の円安は日本が2026年に向けて必要としていない事態だということだ。円安の進行はかえって、日本経済に予測しがたい悪影響を及ぼしかねない。
過去25年間、日本政府の最も一貫した経済政策は、円を過小評価された水準にとどめておくことだった。この政策は2012年末、当時の安倍晋三首相が日銀を促して量的緩和を未踏の領域に進めさせたことで、一気に加速した。
その結果、円相場は30%下落したが、それがまさにいま裏目に出ている。十数年にわたり、日本政府は史上最大規模と言ってもいい“企業福祉”プログラムを続けてきた。引き換えに歴代政権は、公平な競争環境の整備、官僚主義の削減、イノベーションの再活性化、女性のエンパワーメント、外国人材の誘致拡大といった改革の責任から逃れられてきた。
企業経営者たちは、数十年前に「日本株式会社」が行っていたような、構造改革、新しい製品や技術の創出、リスクテイクの必要性をあまり感じずによくなった。
現在の円安は、日本をますます凡庸な国にしかねないもののように思える。しかもそれは、考えられる最悪のタイミングで起こっている。トランプ関税による逆風がますます強まっているほか、隣国の中国は着実に経済力を高めているのだ。
たしかに中国は、信頼感を破壊する不動産危機をはじめ、さまざまな難題を抱えている。だが同時に、習近平国家主席率いる政権は、AI(人工知能)、ロボット、バイオテクノロジー、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、半導体といった未来の技術で中国が先頭に立てるように、巨額の投資を行っている。
こうした取り組みは成果を収めつつある。中国のEVメーカーである比亜迪(BYD)が世界の自動車産業を揺るがす一方、日本の伝統的な大手自動車メーカーはシェアを落としている。AIの世界も今年、中国発の「DeepSeekショック」に見舞われたが、11カ月たっても日本株式会社は目立った反応を示せていない。
日本がテック系ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)を生み出す競争で力を発揮できていない現状と、弱い円を関連づけないことも難しい。まして、円相場が1ドル=160円まで下落することが、誰かの、とくに1億2500万人の日本国民の得になるとはとうてい思えない。


