インドネシア・バリ島に「Desa Potato Head」という場所がある。“desa”はインドネシア語で「村」の意味。ビーチクラブやホテル、レストラン、アートスペースなどが一体となった“クリエイティブビレッジ”として注目されている。
そこは、独自のごみ処理施設や再生工場を備えた「サステナブル村」でもある。廃棄物を再資源化して建材や商品へと生まれ変わらせるなど、「エンターテインメントで社会課題に取り組む」というホスピタリティの新たなモデルを体現している。
きっかけは、サーフィン中に見た“ごみの海”
創業したのは、インドネシアの起業家ロナルド・アキリ氏。ジャカルタでレストラン事業を成功させた「ポテトヘッドファミリー」社のCEOであり、2010年にバリ島スミニャックでビーチクラブを開業。アート、デザイン、建築、ウェルネスを包含する“村”へと発展させた。
原点は、セミニャックの海で息子とサーフィンをしていた際に目にした光景にある。プラスチックごみで埋め尽くされた海岸を前に、「次世代にこんな環境を残したくない」と強く感じた一方で、自らが経営するビーチクラブやホテルの事業も大量の水を消費し、廃棄物を生んでいることに気づいた。
「私たちは問題をつくる側から、解決する側へと転じなければならない」
この気づきこそが「ごみを減らす」「再利用する」というポテトヘッドのゼロ・ウェイスト方針の出発点となった。
ゼロ・ウェイストで地域に貢献する仕組み
敷地に入る前には、空港さながらの「持ち物検査」が行われる。ポテトヘッドでは使い捨てプラスチックの持ち込みを禁止しているため、ペットボトルはここで没収される。その代わりにゲストには、リサイクル素材のトートバッグと水筒がプレゼントされる。館内の給水スポットで自由に給水でき、ビーチクラブでは、使い捨てボトルの回収と引き換えに、水1本と交換できるトークンが配布される。
アキリ氏が真っ先に取り組んだのは、水問題の解決だ。バリ島では水不足が深刻化しているため、ポテトヘッドでは海水を濾過して飲料水をつくっている。キッチンやトイレの排水も濾過し、庭の散水に再利用している。
施設から出る廃棄物は、ほぼすべてを再利用・リサイクルに回す。ごみ処理施設「ウェイストラボ」を設置し、地域事業者と連携した「コミュニティ・ウェイスト・プロジェクト」も展開。建築廃材からブロックをつくり、廃油からはキャンドルを製造。回収したペットボトルや漂流ごみは家具やアート作品へと生まれ変わる。このプロジェクトですでに約150万kgの廃棄物を処理している。



