食中毒事件による危機的状況で、アプリとリワード施策による業績回復を主導
ガーナーがチポトレに転職したとき、FAX注文の問題は同社が抱えていた課題の中ではむしろ些細なものだった。その年、チポトレでは一連の食中毒事件が発生し、大腸菌による感染で60人が発症、22人が入院した。またノロウイルスが2件、サルモネラ菌が1件発生した。株価は急落し、年末を30%安で迎えた。なお2020年、チポトレはこれら食中毒をめぐる米司法省との刑事訴追を解決するため、2500万ドル(約39億円)の罰金支払いに応じている。
こうした危機のさなか、ガーナーが掲げたデジタル改革がチポトレをどん底から引き戻すことにつながった。彼がアプリを公開したのは2017年で、この年からデジタル売上が上向き始めた。アプリ導入後の最初の四半期には、デジタル売上が前年比50%増を記録した。翌年にはデジタル売上が初めて全体の10%に達し、売上額は初めて5億ドル(約775億円)規模となった。アプリとウェブを利用する月次ユーザー数は約400万人に達し、2017年から65%増えた。
2019年にはリワードプログラムを開始し、デジタル注文を「ゲーミフィケーション」で促すことで売上を押し上げた(1日限定で無料アボカドを提供する、といった趣向もあった)。その年の第2四半期には、全体売上が13%増加した。背景にはデジタル売上の前年比99%増があり、この四半期だけで、チポトレの2016年のデジタル売上全体を上回った。
キッチン技術の刷新や受取時間の最適化により、急増するデジタル注文に対応
急増する注文に対応するため、ガーナーはキッチン向け技術も見直した。店頭対応スタッフが混乱しないよう、デジタルレシートと直感的に連動し、注文に必要な具材が光って表示されるスクリーンを導入した。また、受け取り時間をより賢く割り当てる仕組みも開発した。たとえば、処理能力に余裕のある店舗へ注文を回したり、店頭客が少なくなる時間帯に合わせて最適な受け取り時間を提示したりする仕組みだ。
約155億円規模のベンチャー投資を通じて、ロボティクスや物流分野の革新を支援
ガーナーはまた、1億ドル(約155億円)規模のファンド「Cultivate Next」を通じて、チポトレのベンチャー投資の拡大を主導している。これまでに彼が実行した投資は8件にのぼり、ロボティクス系スタートアップ2社、AIを活用したSaaSプラットフォーム、飼料添加物メーカー、持続可能なオイル開発企業、そして地元産食材の物流を担うLocal Line(ローカル・ライン)などが含まれる。チポトレはLocal Lineを活用することで、2024年に約2130万キロの地元産農産物を調達し、地産食材の年間目標を2年連続で上回った。
ゲーミフィケーション施策を強化し、休眠会員の呼び戻しと支出増につなげる
アプリの「ゲーミフィケーション」は、ガーナーにさらなる成果をもたらし続けている。2025年の夏に展開した「Summer of Extras」キャンペーンで、チポトレは1万個のブリトー(100万ドル[約1億6000万円]相当)を配布し、参加したアプリユーザーは640万人に達した。ガーナーによれば、「このキャンペーンによって前年の夏と比べて、休眠会員の再アクティベーションが大きく伸びた」という。大学生向けの新しいリワードプログラムも順調に立ち上がっており、チポトレの広報担当タイラー・ベンソンによれば、参加者は「利用頻度が高く、エンゲージメントも強く、それが支出額の大幅な伸びにつながっている」という。
AIを活用したバーチャル採用担当を導入、応募者増と事務負担の軽減を両立
AIは、こうしたゲーミフィケーションをより個別化する役割も担うようになる。ただし現時点でガーナーがAIを使っているのは主に社内業務で、特に人事領域だ。彼は最近、AIを活用したバーチャルチームメンバー「Avo Cado」を導入し、求人の応募件数を2倍に増やしたうえ、新規採用者のオンボーディングにかかる事務作業の時間を75%削減したという。
「テクノロジーそのものを目的化しないこと」
ガーナーは、自身の戦略の核心は「テクノロジーそのものを目的化しないこと」に尽きると語る。「重要なのは、人がどう感じるか、日々の暮らしがどう楽になるか、そしてより意味のある形で人とつながれるようになるかだ」と彼は語った。


