デジタル売上が総売上の3割を超え、「数千億円規模の成長エンジン」として定着
その後の10年間、ガーナーはCIOとして、そして現在の社長兼最高戦略・CTOとして改革を主導してきた。その結果、2015年に2億2500万ドル(約349億円。当時の売上45億ドル[約6975億円]の5%)だったデジタル売上は、2024年には40億ドル(約6200億円)近くにまで膨らみ、総売上113億ドル(約1.8兆円)のうち35%超を占めるまでになっている。
「負債が一切ない。財務基盤は非常に強固」
現在チポトレのデジタル事業は、ガーナーが「数十億ドル(数千億円)規模の成長エンジン」と呼ぶ存在だ。全米3900店と、アクティブ会員数2000万人のリワードプログラムをつなぐ巨大なネットワークを形成し、消費者が支出を抑える局面でも伸びを維持している。「当社は、上場企業の中でも珍しく、負債が一切ない。財務基盤は非常に強固で、この成長が、人々の食習慣そのものを変える原動力になっている」とガーナーは語る。
こうした実績が評価され、ガーナーはフォーブスが11月18日に発表した米企業の最も優れたCIOやCTOを称えるリストの「2025 CIO Next」に選ばれた。
株価下落と来客数減少の中、「大きな役割」と高額報酬
チポトレの株価は2025年も年初から48%下落している。来客数の減少が続く中で、同社CEOは現在、ガーナーに「大きな役割を任せている」と、チポトレを担当するジェフリーズのアンディ・バリッシュはフォーブスに語った。「カートはチポトレの成功の大部分を担ってきた」とバリッシュは指摘する。
一方で、ガーナーは自身の業績への貢献に見合う報酬を受け取っている。チポトレ幹部の中で3番目に多い株式を保有する彼の持ち株は、700万ドル(約10億9000万円)相当のストックオプションを含めて4200万ドル(約65億円)超に達する。2024年の総報酬額も1600万ドル(約25億円)を超えた。
デジタル専用レーンの導入などで、高い利益率と効率的な投資回収を実現
チポトレのデジタル売上は、同社にとって最も利益率の高い注文形態だ。現在、全1100店がデジタル注文を重視した設計となっており、「チポトレーン」と呼ばれる専用の受け取りレーンを備える店舗もある。こうした店舗は、売上・利益率・投資回収のいずれの面でも、まだ改装されていない従来型店舗より高い成果を上げる傾向がある。今後オープンする直営店の80%以上は、このチポトレーンが導入される。
「デジタル注文が1日5万件に到達した日のことをよく覚えている。現在では50万件を超えている。私たちは、客が望む形でチポトレにアクセスできるようにしたいだけなんだ」とガーナーは語る。
ウェンディーズの現場経験から顧客奉仕の精神を学び、スターバックスで改革の実績を積む
オハイオ州コロンバス出身のガーナーは、1991年の厳しい雇用状況の中でITキャリアをスタートさせた。オハイオ州立大学で経済学を学んだにもかかわらず、彼が就いたのは、時給6ドル(約930円)で電話対応を行うウェンディーズのIT部門の臨時職だった。1992年にフロリダをハリケーン・アンドリューが襲い、10店舗が損壊した際、ガーナーはその店から運び出されたレジとコンピューターの修理に名乗りを上げた。
数台を復旧させた後、ガーナーは残りの機器に必要な部品のリストを作った。すると、同僚の1人が彼を揶揄する風刺画を描いているのを見つけたという。彼の上司はその同僚を即座に解雇した上で、ガーナーにその同僚の正社員の職を与えた。ガーナーは、外食産業で働く40年のキャリアを通じて忘れられない教訓をそこから学んだと語る。「レストランでは、どんな仕事も自分の仕事ではないと考えてはいけない。常に客に奉仕する立場でいないといけない。傍観者になるな、ということだ」。
ガーナーは1995年にウェンディーズの国際IT部門ディレクターに昇進し、その2年後、28歳でスターバックスに引き抜かれた。当時のスターバックスは1400店規模の若いコーヒーチェーンだった。その後17年間、ガーナーは同社で改革を進め、2011年にはシニアバイスプレジデントとして大成功を収めたスターバックスのギフトカード事業をデジタル化した。エグゼクティブバイスプレジデント兼CIOに昇進した後の2015年には、モバイルオーダーを導入した。


