根本的原因:育児や介護の負担、収入の目減り、企業文化
働き方のルールに変化が起きると、最初にその影響を被るのは女性で、しかも打撃が最も大きくなるケースも多い。RTO義務化も例外ではない。
いまだに育児や介護の担い手とされる女性たち
2024年の時点で、一次的な育児(入浴や食事の世話、送り迎えや外出時の付き添いなど、メインの活動として行なわれる育児)に女性が費やす時間は、男性と比べて1日あたり1時間長かった。
しかもこれだけではない。二次的育児(ほかの用事を行ないながら同時並行で子どもの面倒を見ること)に関しても、女性がかなりの部分を担っているからだ。
子育てに費やす時間がもたらす金銭的代償
育児や介護などの無報酬のケアを提供する母親が失う金額は、一生涯で平均29万5000ドル(約4600万円)に達する。これには、ケアにかかる時間によって生じる賃金の減少、昇進機会の逸失、退職後に向けた積み立て資金の不足などによるものだ。生涯賃金のうち、実に15%に相当する額が失われている計算になる。
保育費用も高騰
全米38州で、フルタイムの日中保育を受けるのにかかる費用は、公立大学の授業料を上回っている。多くの家庭にとってこうした支払いは、家計の負担という段階にとどまらず、もはや支払い不可能な領域に達している。
そこで女性たちは、難しい選択を迫られる。労働時間を短縮する、一次的にキャリアの追求をやめる、昇進をあきらめる、極端な例では完全に仕事から身を引く、という選択だ。
RTO義務化と、保育費用が手が届かないレベルまで高騰する事態が同時に起きれば、その結果は予想がつく。こうして女性は、自らの意思による選択ではなく、やむにやまれず「オプトアウト(自主退職)」の道を選ぶことになる。
人材の引き止めよりも「企業文化」が重視されつつある
企業の最高経営責任者(CEO)は、オフィス勤務を義務づける理由として、「企業文化」や、従業員間のコラボレーションを挙げることが多い。しかしハイブリッドモデルの事例を見ると、話はまた違ってくる。こうした働き方でも、完全出社オフィスと同等の効率性をもって、生産性や昇進の可能性を維持することは可能だ。ここからわかるのは、柔軟な働き方は、ぜいたくな特権ではなく、人材を引き止めるための戦略として位置づけられるべき、ということだ。


