11月25日発売のForbes JAPAN2026年1月号の特集「日本の起業家ランキング2026」で8位に輝いたのは、 N.B.Medicalの正林和也だ。デジタルテクノロジーとリアルなものづくりの両輪を回す開発プロセスで、最難度の脳血管治療デバイスの実用化を目指す。
髪の毛よりも細い網目状の金属チューブ。「ステント」と呼ばれるこの医療機器に、N.B.Medicalの技術と企業価値が詰まっている。ステントは、カテーテルという細い管を通して心臓や脳の詰まった血管内に留置し血流を確保する医療機器だ。同社は脳血管用のステントで2026年以降の臨床試験を計画し、27年以降の薬事承認を目指す。
一見、微細加工を売りにした会社に見えるが、そうではない。共同創業者兼CEOの正林和也は「デジタルテクノロジーとリアルなものづくりの両輪を回す『デジタルツイン』の開発プロセスこそ、我々の最大の強みです」と語る。
脳血管は複雑で繊細。わずかな傷も命にかかわるため、ステント開発には材料工学・構造力学・解剖学を融合した高度な設計力が求められる。
N.B.Medicalのステントの独自性は、網目のデザインにある。蛇行した血管に沿って自在に変形する柔軟性は、この網目構造によって生み出される。正林の兄・康宏が主導するコンピューターシミュレーションが、ミクロン単位の設計を可能にする。康宏は米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で、脳血管内治療の世界的権威、立嶋智教授のもとでステントの構造設計や、ステントがおよぼす血管壁などの生体組織への影響を研究してきたエンジニアだ。複雑なステント構造を最適化するために、デジタルモデリングツールや構造解析用ソフトウェアなど、通常は汎用品に頼らないと実現できない高度なデジタルツールを、完全内製化した。これにより高速にステント構造の最適化が可能になり、従来設計の性能限界を突破する特殊構造のステントデザインが開発された。
緻密な設計をかたちにするのは強力なパートナー企業だ。創業100年を超える電子部品メーカーのヨコオは、半導体関連の先端デバイスを手がけるなど微細精密加工を得意とする。その技術を応用し、ステント製造のノウハウを培ってきた。デジタルテクノロジーと日本のものづくりの融合によって、純国産で超高付加価値の医療デバイスが完成した。



