正林が医療機器産業に飛び込んだのは12年前。新卒で入行した三菱UFJ銀行を退職し、兄とともに脳梗塞治療用のステント開発を手がけるBiomedical Solutionsを創業した。だが、資金調達は困難を極めた。当時はステントといえば心筋梗塞の治療が一般的で、脳梗塞への応用は未知の領域。「事業のリスクや将来性を誰も評価できなかったのです。投資ファンドやVCにも相手にされず、最後に頼った政府の補助金で首の皮一枚つながりました。あの補助金がなければ、我々は今、日本にいなかったと思います」。
この資金を元手に、兄弟は心臓などから飛んだ血栓が脳血管を詰まらせる「心原性脳梗塞」を治療するためのデバイスを開発。国が定める医療機器のクラス分類で最も審査の厳しい「クラスIV(高度管理医療機器)」の承認を取得した。これは、脳血管疾患の領域では史上初の快挙だった。その後、医療機器大手のテルモと独占販売契約を結び、現在も多くの患者を救っている。
N.B.Medicalは正林にとって3回目の起業だ。正林は遠からずこの医療機器業界でパラダイムシフトが起こると予測する。「開発工程である非臨床試験、動物実験や臨床試験の一部が、コンピューターシミュレーションによって代替される時代がやってきます。そしてその時こそ、我々の強みである『デジタルツイン』の開発プロセスが真価を発揮すると思っています」
正林和也◎慶應義塾大学卒。三菱UFJ銀行を経てPh.D.の兄と医療機器ベンチャーを創業し、国産初のクラスIV脳梗塞治療機器を開発、M&Aを達成。UCLA、産業技術総合研究所など国内外の研究機関と連携しN.B. Medicalを創業。


