たとえば誰かに「これを10回連続で成功させてください」と課題を出してやらせると、5回6回と成功が続くごとにプレッシャーが増し、連続成功9回目ぐらいでは極端に大きくなる。実験室でプレッシャーによる生理反応を観察したいときなど、人工的に実験参加者にプレッシャーを与えようとしてもなかなか難しかった。それがごく簡単な方法で、ほとんどお金もかからず、プレッシャーをマックスにできる仕組み(実験パラダイム)を東京大学が考案した。
東京大学大学院総合文化研究科の工藤和俊教授らによる研究グループは、心理的プレッシャーがかかった状態ではアスリートなどが本来のパフォーマンスを発揮できない現象を解明する研究の一環として、実験室で簡単に強いプレッシャーを与える方法を編み出した。被験者に、一定の強さでボタンを押すゲームをやらせる。強すぎても弱すぎてもいけない。定められた範囲内の力で押すことが求められる。そのとき条件を10回連続で成功させることとすると、成功が続くほどにプレッシャーが指数関数的に増すことがわかった。

プレッシャーの尺度には、心理的覚醒(心臓がドキドキしたり汗をかいたり体がこわばるなどの反応)の指標となる心拍数を用いた。実験では、9回連続成功したときに1分間で20回の心拍数増加を記録した。それまで実験室でプレッシャーを誘発させる方法では、1分間に5回の増加程度にとどまっていたのだから、これは大きな進歩だ。
10回連続ではなく、連続でなくてもいいから100回成功させるという条件に切り替えると、たちまち生理的覚醒は収まった。連続成功条件のときは、成功を続けるほどボタンを押す強さの正確さがわずかながら向上したが、100回成功の条件でも、向上の度合いはさほど変わらなかった。つまり連続という条件が、言ってしまえば無駄にプレッシャーを与えたわけだ。

じつにシンプルで短時間で目的を達成できる方法だが、実験装置も、押す力が測定できるボタンという、きわめてシンプルで、ほとんどお金をかけずに自作できそうなものだ。この成果は、今後、実験室でプレッシャーに関する実験を行う際に大いに役立つはずだ。
科学研究とは無縁の我々にとっても、日常において同様に無駄なプレッシャーを自分にかけている場面を改善する手がかりになりそうだ。何らかの作業を10日間続けてやろうと決めるとプレッシャーに感じるが、もっと長いスパンで10回やるとすれば気が楽になる。もしかしたら、仕事の効率アップのヒントになるかもしれない。


