万博は現代の式年遷宮になり得るか?
大阪・関西万博の開催期間中、日本館には約181.3万人が来場、同期間に約170の国・機関の賓客も訪れました。日本館プロデューサーを務めてくださった佐藤オオキさん(nendo)総合監修の下、多くの企業・研究機関・団体が最先端技術で空間と展示のなかに日本館の基本構想メッセージを盛り込んでくださいました。さらに、約270名のアテンダントが日本らしいおもてなしの心で、そのすべての来館者を丁寧に迎えてくださいました。万博という歴史ある国際事業において日本の顔となる日本館については、経済産業省博覧会推進室が所管してきました。その経済産業省が今回の大阪・関西万博においても、次世代にメッセージを届けたいという日本館レガシープロジェクトを事業の一つに据えてくださったことに感謝をしています。
日本館ファクトリーエリアの終盤、やわらかなものづくりを紹介するエリアのラストは、伊勢神宮の式年遷宮です。20年に一度、神様のお宮をつくりかえる儀式が実に63回1300年に渡って受け継がれてきた、その意義と精神性をぜひ多くの来館者に知っていただきたいと考えたからです。この20年に一度という間隔が技術伝承のペースとしても重要な役割を果たしているとする説もあります。3世代の職人が一堂に会して神事につながる仕事を経験することで、1300年以上も技術と精神性を受け継ぐことを可能にしたと言われています。
今回、日本館レガシープロジェクトは大学生と中学生が、ともに言葉を紡いでくれました。問いを受け継ぎ、語り継ぐことで、未来のクリエイターたちが育っていく、その循環こそが日本館が残した最大のレガシーかもしれません。奇しくも、次の同規模の万博は2030年リヤドで開催されます**。
これから5年経つ間に、Phase2を受講した中学生たちが今度は大学生くらいの年代で、もしかすると日本文化のことを誰かに問いかけてくれる存在になっているかも知れません。5年に一度、世界のことを一堂に会した皆で考える機会として万博をとらえれば、それはまるで世界規模の式年遷宮のように何千年もの先の未来までこの想いを大切に紡いでいけるかも知れないと期待せずにはいられません。
*大阪・関西万博 日本政府館の公式トークイベントアーカイブ
https://2025-japan-pavilion.go.jp/news/251010_02/
**「登録万博」以外に「認定万博」という比較的小規模の万博もあります。2027年は「横浜園芸博」と、「ベオグラード万博」が予定されており、「ベオグラード万博2027 政府日本館」の基本計画は「ともにあそび つながる 日本のあそび心」に決まりました。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2025/f597a283e9b9ca9f/20251027.pdf

塩瀬隆之(しおせ・たかゆき)◎京都大学工学部精密工学科卒業、同大学院工学研究科修了。2014年7月京都大学総合博物館准教授。2018年より経済産業省産業構造審議会イノベーション小委員会委員および若手WG座長、特許庁知財創造教育調査委員、文化庁伝統工芸用具・原材料調査委員、日本医療研究開発機構プログラムオフィサー、2025年大阪・関西万博政府日本館有識者など。2017年度文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門)ほか、受賞多数。著書に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社、2020年)、『未来を変える 偉人の言葉』(新星出版社、2021年)。


