「万博チルドレン」構想の原点
このプロジェクトの原点は、2020年のパンデミック下に策定された日本館基本構想にあります。そこには次のような一文が記されています。
「日本館を体験した少年少女たちは万博チルドレンとして、誰もが一回り成長し、未来社会を実現するクリエイターとなるだろう」
基本構想の中心は、「いのちと、いのちの、あいだに」という循環を循環たらしめる要素、いのちといのちのあいだに微視的な視点を向けること。ゴミなどの廃棄物が「創造性の欠如」によって生まれてしまうと考えるならば、発酵技術や別の用途を見出す創意工夫はいのちや道具を次の価値へと繋げ、結果として捨てるモノがなく循環にとどまるような日本らしい暮らし方の象徴になるのではないか*。
見えない関係性を大切につないできた日本人の丁寧な暮らしの知恵が、科学技術の眼によってその背後にある微生物の働きや物理的化学的な合理性のいくつかが明らかにされつつあることも後押しとなりました。生きとし生けるものが次の循環につながる可能性、それを拓く丁寧な循環の叡智が日本人の精神性や文化のみに留めることなく、海外の人々にも贈り届けられるような普遍性のある知恵の一つとして紹介できる可能性につながるからです。
もちろん海外の人々だけでなく、日本人にも思い出してもらいたいですし、さらに言えば次世代をリードしていく若者にこそ届けたいとの想いが、「万博チルドレン」という言葉に集約されているのです。
言葉を紡ぐ━━2段階のレガシープロジェクト
日本館レガシープロジェクトは、次のような構成でメッセージのバトンを次世代へ、さらに次の次の世代へと展開されました。
Phase1:日本館から大学生へ━━バーチャル日本館でのミッション
2025年8月、大学生たちはバーチャル夢洲の会場に集合しました。5年前の日本館基本構想策定のタイミングが未知のウィルス感染に世界が苛まれている真っ只中での検討であったため、パンデミック収束の可能性も見通しがまだ立っておらず、万博そのもののリアル開催も危ぶまれていました。そのため当時のシナリオの一つには、バーチャル夢洲というデジタル空間のみでの万博開催も覚悟していたこともあり、各国バーチャルパビリオンも力を入れて作り込んでいました。
日本館はデジタル空間ならではの体験をできるように、アバターがシーンによっては藻やゴミそのものになりきってゲーム形式でクリアしていくうちに日本館の背後にある循環メッセージが体験できるようにプログラムされていました。参加した大学生たちはすべてのゲームをクリアした先にある秘密の部屋に集合します。ここで筆者から大学生たちに「ホームミッション」を発表しました。家庭の冷蔵庫を開けて、「発酵」という文字が表記されている食品を探したり、何か使い終わったモノを捨てる前に一度立ち止まってもう一花咲かせたりするなど、日常の中で“循環”について考える場面を増やす仕掛です。実際にバーチャル日本館やホームミッションを体験した大学生たちは、「藻やゴミになって回る体験がシンプルに楽しかった」「身の回りのものを見る目が変わった」などの感想を寄せてくれました。


